2016年11月10日 第46号

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詳細はパート1、5ページをご覧ください。

バンクーバー美術館で、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、韓国の36人のアーティストによる現代美術の作品を展示する「Juxtapoz × Superflat」が、2017年2月5日まで開催されている。

 

自身の作品を紹介するMADSAKIさん(右)。ポップな画風ながら毒もチラリと入っている 

 

現代美術の最新版

 この展覧会は、現代美術、デザイン、ファッションなどを取り上げている、サンフランシスコに拠点を置くWebマガジン「Juxtapoz Art & Culture」の編集長エバン・プリッコさんと、日本の現代美術家である村上隆さんが共同で企画、監督したもの。メインカルチャーや伝統的な芸術のカテゴリーにおさまらない、最新のクリエイティブな作品が世界各地から集められている。スケートボード、グラフィティ、ストリートアート、コミック、デジタルアートなど、サブカルチャーといわれる分野を含む現代美術の世界を紹介する。11月3日、一般オープンにさきがけてメディア向けのプレビューが行われ、キュレーターの村上隆さん、エバン・プリッコさんはじめ、4人のアーティストが展示作品を案内した。

さまざまな形の作品を楽しむ

 展示されているのは、絵画、彫刻、フィギュア、オブジェなど、さまざまな形態の作品。独自の方法で花を活ける気鋭の花道家、上原雄次さんの動画には、車にショッピングカートを積み上げ、その上にソファを重ねたうえで花を活けるパフォーマンスが撮影されている。ショッピングカートを積み上げるアイディアは、アメリカで見た、ホームレスの人がショッピングカートに自分の荷物を積んで移動している姿が印象的だったからだという。前衛的なパフォーマンスと日本の伝統的な華道の世界とのミックスは、近年におけるさまざまなカルチャーの融合を象徴しているかのようだ。

 漫画家、イラストレーターの寺田克也さんは、美術館の壁に貼られた白い紙にマジックペンで描くイラストを2枚、その場で制作。下書きなしでまっさらの紙に描いていくのには驚いた。寺田さんは小説の挿絵やゲームのキャラクターデザインなども手がけており、その緻密な筆致と創造性あふれる絵柄は日本だけでなく海外でも人気が高い。自身のスタンスを基本的に漫画家として捉えており、イラストも漫画的アプローチで描いているという寺田さん。描くモチーフはSFやファンタジー小説に出てきそうなキャラクターなどで、細かに描きこんであるのをじっくり見たくなる。作品について、「どう捉えるかは見る人に委ねられていると思うので、楽しんでもらえたら一番ですね」と語っていた。

 6歳から長年にわたりアメリカに在住していた経歴を持つ日本人アーティスト、MADSAKIさんの作品は、壁画のような大きさ。セサミストリート、シンプソンズなどアメリカのテレビ番組のキャラクターと、ドラえもんやアラレちゃんなど日本のアニメのキャラクターがずらりと描かれていて強烈なインパクトだ。描いてある線からインクが垂れているのは意図的なのだろうかと尋ねると、「ただ絵が下手なだけです」と笑っていたMADSAKIさんだが、一見かわいらしいキャラクターが不気味に見えてくる効果が抜群で、それが作品の個性になっている。

スーパーフラットとは

 今回の展覧会でキュレーターを務めた村上隆さんは、そのきっかけについて「Juxtapozマガジンは、いわゆるメインストリームではない作品の紹介雑誌なんです。美術館とかでやる展覧会に出る人は、普通はアートフォーラムとか現代美術の雑誌に載っているようなアーティストで、明確に棲み分けがあるんですよね。それでこういった展覧会をやっていくことで、若いオーディエンスとかに見てもらい、新しいアイディアを作ってもらえないかなということを編集長(エバン・プリッコさん)と話して始まった企画です。3カ月前、シアトルから始めました。場所を借りるところからしてゼロから立ち上げて、草の根的にやっていって、今回ラッキーにもバンクーバー美術館でできることになったんです」と話す。

 村上さんはスーパーフラットという芸術概念を展開している。スーパーフラットには、消費文化の浅薄さや平凡さ、現代美術としてのサブカルチャーの重要性、伝統的なヒエラルキーの平坦化など、いろいろな意味が含まれているという。「戦後の日本の状況として、アメリカに戦争で負けて、経済的なコングロマリット(複合企業)も解体されて、社会内ヒエラルキーがなくなったんですね。明治維新以降、西洋文化をコピーすることによって日本でも貴族階級みたいなものが生まれたものの、戦後、解体されたわけです。その解体された社会状況をある意味『フラット』であると捉え、他にいくつかの意味を重ねて『スーパー』とくっつけたんです。(この展覧会では)こうした社会的な状況とビジュアルアートにおける西洋の人々との違いとか、また、韓国と日本って似てるんですけど、中国と日本って違うので、アジアの中でも日本の特殊な平面性みたいなものをプレゼンテーションすることができればな、と思いました」。既存のものと新しいアイディアが融合したアート、今までになかったような発想など、興味深い展示作品が並ぶ「Juxtapoz × Superflat」では、いま現在、現代美術の世界で起きているムーブメントを感じることができるのではないだろうか。

(取材 大島 多紀子)

 

Vancouver Art Gallery
750 Hornby Street, Vancouver
開館時間 午前10時〜午後5時 (火曜日は午後9時まで)
www.vanartgallery.bc.ca

 

アーティストの中村一美さんとのコラボ作品を紹介する村上隆さん(右) 

 

展覧会の作品を見て回るメディア関係者 

 

展覧会のキュレーターを務めたエバン・プリッコさん 

 

作品を制作中の寺田克也さん 

 

展覧会でキュレーターを務めた村上隆さん。2018年にバンクーバーで個展が開かれるとのこと。今度は村上さんの作品がたっぷり鑑賞できそうだ 

 

James Jean, Bouquet, 2016 acrylic on canvas, Private Collection 

 

Rebecca Morgan, Pittsburgh Joely Jug, 2014 stoneware, Courtesy of Asya Geisberg Gallery 

 

Paco Pomet, Social 2016 oil on canvas, Courtesy of the Artist and Richard Heller Gallery 

 

Chiho Aoshima, Little Miss Gravestone's Absent Musing 2016 interactive monitor, video animation©2016 Chiho Aoshima/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 

 

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