2016年7月28日 第31号

決勝まで駒を進めた日本代表。しかしアメリカの壁を崩せず、今大会は準優勝に終わった。

サレー市ソフトボールシティで開催された、第15回ソフトボール女子世界選手権大会。優勝候補の日本代表は準決勝と決勝で宿敵アメリカと対戦。互角の勝負をしながらも、両試合とも黒星を喫し、世界選手権3連覇はならなかった。

 

準優勝メダルを胸に記念撮影する日本代表の選手たち(24日、対アメリカ決勝戦)

 

今回立ちはだかったアメリカの壁

 日本対アメリカの対戦は今大会の決勝まで含め、ここ1カ月で6戦。結果は3勝3敗。ソフトボール女子は常にこの2チームが2強で、お互いがお互いを知り尽くしている、そんな環境で常にどちらかが優勝という関係だ。

 カナダ入りする前のUSAワールドカップは日本が優勝。そして今回はアメリカに軍配が上がった。過去2回は日本が優勝している。お互いにエースを欠いて臨んだ世界選手権。エース上野を欠いても優勝できるチームとして帰国し、オリンピック復帰を喜びたいとした目標はならなかった。

 「良く捉えればアメリカとの力関係はそんなに大きくなくて」と福田五志監督。「ただ、この勝ち負けはすごく大きいなと感じました」と語った。勝つためには何をすればいいのか。「金メダルを取るには、本当にどういうプレーが、どういう技術が通用するのか。あらゆる角度から、我々はここで勉強させてもらったと思っている」と総括した。

 坂元令奈主将は「なかなか点を取れなくてズルズルといった試合も、ベネズエラ戦からあって。その時はピッチャーが頑張ってくれたと思うので、ピッチャーが頑張った分、取られた時は野手が取ってあげなくてはいけなかったなと」と反省を口にした。決勝では「このままではコールドで終わってしまうんじゃないかっていう感じで」と危機感から「気持ちで入りました」という本塁打も放った。しかし「攻撃面を強化しなくてはいけないと思います」。課題が見えた大会となった。

 

東京五輪を目指して

 今大会は2020年東京オリンピックでソフトボール女子が種目復帰することを想定した大会となった。8月3日には国際オリンピック委員会(IOC)が追加種目の採択をする。福田監督は「あと4年ありますからね。それに向けてのいい経験にはなったと思います」と語った。

 決勝戦では若い濱村ゆかり投手が先発を務めた。3回1/3を投げて7失点。福田監督は全てが悪いわけではなく、この経験を生かし1球の重みや大切さを勉強してほしいと期待した。2020年には中心となって活躍してもらう投手。相手との駆け引きや勝負どころなどは、これからの経験で積み上げていくところ。世界選手権は初めて。「疲労もあったかな」と気遣った。濱村投手本人は「疲れはないです」と言い訳しなかった。「抑えたい気持ちが先に出て力が入ってしまった」と反省した。今大会は、これまで優勝を続けてきた「先輩たちのすごさを改めて感じた」という大会。自分も「一からしっかりとやっていきたい」と前を向いた。

 主将も「世界選手権は終わったんですけど、次は(9月の)ジャパンカップがあるし、2018年の世界選手権、2020年のオリンピックに向け、これから若い子たちが頑張らなければいけないと思うので、この経験を無駄にするのではなく、つなげてほしい」と語った。

 

カナダが3位

 カナダはアメリカとの準決勝に敗れた日本との3位決定戦に進出した。チャンピオンラウンドで2位と苦戦したが、プレーオフに入り調子を上げ3位決定戦までこぎつけた。結果は日本が4本塁打を放つ1-11と4回コールド試合となったが、地元ファンの応援を背に次につながる大会となった。

 今大会ではこれまで日本、アメリカに次ぐ強さを見せていたオーストラリアが10位に沈んだものの、4位オランダ、5位メキシコ、6位ベネズエラが実力を見せた。ベネズエラは日本の初戦で7回裏まで苦しめる接戦を見せた。

 

日本の応援に感謝

 福田監督も、坂元主将も、連日の応援に感謝した。「毎日応援に駆け付けてくれたので、ほんとに勇気をもらいました」と坂元主将。福田監督は「日本のファンがこれだけいるのかと改めて感じた10日間だったので、機会があれば、またここで世界一を目指してガンバリたいと思います」と語った。

 

2020年のその先に

 日本の3連覇はアメリカによって阻まれた。しかし日米2強は今大会でも健在だった。他を寄せ付けない強さを見せたこの2強の戦いがオリンピックというスポーツ最高峰で再び実現する日も近い。

 ソフトボール女子にとっては苦難の10年だった。スポーツ振興で女性の活躍を支援するというIOCは、2008年北京大会を最後にソフトボールを種目から外した。あの決勝で日本が見せたアメリカとの死闘を覚えている人も多いだろう。強力アメリカ打線を相手に投げ抜いた上野由岐子投手の快投は伝説となっている。

 その上野投手も今月34歳となった。今大会はケガのため欠場。カナダのファンにとっては残念だったが、スポーツ選手とケガはつきもの。ベテランともなるとなおさらだ。上野投手が新人でまだ控えとしてソフトボールシティに来た時のことを覚えている。大型新人として当時の宇津木妙子監督が紹介してくれた。

 

 この地でも数々の伝説を残している。3年前にはプレーオフに入り4試合連続完封勝利で優勝、誕生日にMVPを受賞した。この年の秋に東京五輪への採決が控えていたため、東京五輪でソフトボール復帰をと大会にも力が入った。その時上野投手は「(五輪復帰の)可能性があるだけに、今までと違うというか、すごくモチベーションも上がってきてるし、なんとかしたいなって思いですけど」と語った。選手として最高潮の時に最高の舞台を奪われた悔しさはあっただろう。ソフトボール女子はアメリカの独勝を理由の一つに五輪種目から外された。それを阻止したのが日本代表であり、上野投手だった。あるカナダの大会関係者は上野投手の存在が五輪復活のカギとも語った。

 女性のスポーツ振興にはソフトボールは最適だろう。体格差が大きく勝敗を左右する他の団体競技とは違い、どのチームにも可能性はある。今大会では31カ国が参加した。初参加は11カ国。世界の競技人口は確実に増えている。日本やアメリカの国内リーグの貢献も大きい。そして五輪競技に復帰することによって、その実力差は確実に縮まっていく。今大会でもその片鱗をのぞかせた。

 坂元主将も2020年にとどまらず、その先でも五輪種目としてソフトボールが参加し続けることが、競技の活性化につながると期待した。そのためには、選手の、関係者の、そしてファンの声が必要だ。サッカー女子W杯でも、冬季五輪でも、女子競技は常に選手自身が声を上げ、それを周りが支援することで確実に前に進んできた。2020年のその先へ。グランド外での戦いもすでに始まっている。

(取材 三島直美 / 写真 古川 透)

日本代表結果
決勝 3-7 アメリカ
3位決定戦  11-1 カナダ(4回コールド)
準決勝  3-4 アメリカ
7月22日  2-0 メキシコ

チャンピオンシップラウンド
7月21日  9-2 ニュージーランド(6回コールド)
7月19日  4-2 イギリス
7月18日  6-1 台湾

予選ラウンド
7月17日  7-0 フランス(5回コールド)
7月16日  2-1 ベネズエラ

 

1回裏、1死3塁、山田選手は右越えに先制の2点本塁打を放つ(24日、対カナダ戦)

 

2回裏、渥美選手(中央、12)は先制の本塁打を放ち、ベンチ前で迎えられる。左は米国バッテリー(23日、対アメリカ戦)

 

5回裏、1死、洲鎌が右中間安打を放ち、メキシコの守備陣がもたつく間に一気に本塁へ生還する(22日、対メキシコ戦)

 

攻撃の指示を出す福田監督(中央)。(23日、対アメリカ戦)

 

3回裏、市口選手は本塁打を放ち、ベンチ前で我妻選手(手前)に抱きかかえられる(24日、対カナダ戦)

 

1回表、先発の浜村投手はモートリー選手(左)に3点本塁打を浴びる(24日、対アメリカ決勝戦)

 

盛り上がった日本チーム応援席(24日、対カナダ戦)(写真 編集部)

 

カナダにコールドで勝ち、喜ぶ日本の応援席(24日、対カナダ戦)

 

決勝を応援する岡井朝子在バンクーバー日本国総領事(左)と夫君の岡井知明氏(24日、対アメリカ決勝戦)

 

表彰式で、準優勝メダルを授与される日本代表の選手たち(24日、対アメリカ決勝戦)

 

表彰式のあと、日本、カナダ、米国の上位3チームの選手たちは一緒に記念撮影をした(24日、対アメリカ決勝戦)

 

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