「DAIGO」がバンクーバーに帰ってきた。覚えている人も多いだろう。MLS(メジャー・リーグ・サッカー)バンクーバー・ホワイトキャップスFCで活躍していた小林大悟選手。わずか1シーズンでニューイングランド・レボリューションに移籍したが、その存在感はバンクーバーのサッカーファンに日本サッカーの面白さを垣間見せた。
今回は、6月18日BCプレースでホワイトキャップスと対戦するため、移籍後2年半にして初のバンクーバー凱旋。本人も「楽しみにしていた」というバンクーバーでの試合を前に市内ホテルで話を聞いた。
3分間実現した小林選手と工藤選手の対談。6月17日バンクーバー市内ホテルで
「ラスト20分で何ができるか。それも勉強」
2013年ホワイトキャップスに入団、14年にレボリューションに移籍してすでに3季目。「自分が一番年上です」と笑うベテランは、チームにも馴染み、監督とも選手ともいい関係を保っている。しかし今季は先発が少なく、途中出場での起用が多い。監督からは「ラスト20分くらいで試合に出てゲームを変えてくれ」の指示が多い。それでも「勉強ですね、それもね。ラスト20分で何ができるかっていうところで。割とその状況も楽しみつつ、勉強しつつ、やれてはいますけど」。持ち前の適応能力で自分ができる役割でチームに貢献している。
サッカーに対するやる気や情熱をあまり表に出さない自然体な口調は相変わらずだが、MLSへの視線は熱い。MLS4季目。「レベルは確実にあがってますよ」と語気を強める。「単純にね、サッカー自体が年々成熟してるって感じ。勢いだけだったっていうわけじゃないけど、1年目はもっとフィジカルに任せてたってすごい感じましたけどね。今はすごい良い選手も入ってきて、サッカー自体が成熟していると思います」。俯瞰的な視点も相変わらずだ。 MLSは2015年に2チームを追加し(2014年で1チームが活動休止)、現在20チーム。それと時期を同じくするように、世界から代表レベルの選手が続々と移籍。イタリア代表ジョビンコ(トロントFC)、コートジボワール代表ドログバ(モントリオール・インパクト)をはじめ、ブラジル代表カカ(オーランド・シティSC)、イングランド代表ジェラルド(LAギャラクシー)、メキシコ代表ジョバニ(LAギャラクシー)など、ワールドカップやオリンピックに出場した選手が北米に集まってきている。
「難しさも楽しめれば成長できる」と工藤選手にエール
リーグ変革期に第一線で活躍し、その変化を肌で感じ取っている。そうした中で今季ホワイトキャップスに工藤壮人選手が入団した。前チーム柏レイソルでは得点王であり、日本代表にも選ばれた経験を持つ25歳。「東北チャリティマッチの時に同じチームだった」という以外、日本ではほとんど接点がない。そんな若い選手のMLS挑戦を応援している。JリーグからMLSへの入団は「ほんとにそういう(やる気のある)選手が、給料下げてでも海外チャレンジしたいんだってアクション起こさない限り成り立たないんですよ、今のところ」というのが現状。「そういう人が来てくれて注目されれば僕としては嬉しいですけどね」。
4季目ともなればリーグのいろいろなことが見えてくる。MLSにいることで日本代表への芽が摘まれかねないことや年棒が下がることも覚悟の上での移籍に「いろんなリスクしょってたぶんここ選んだと思うんですよ。だからすごいなって思って」。
そして、期待のフォワードとしてこれから、という矢先の大けが。「海外の難しさも感じてるんじゃないですか、工藤くん。日本の気の知れた仲間とプレーして、自分のこと理解されてる環境で、柏で一番点取っていた選手ですよね。今はだから思ってるところにボールが来ないんだと思うんですよね。当然ですけど。思ってるタイミングも違うし、サッカーも文化とか感覚も違うから。かといって、1人で打開しようったって、身体能力めちゃくちゃで、体超でかい選手がディフェンダーでいるから、そういう難しさでもうもがいてるんじゃないですか、たぶんね。それも楽しんでもらえればたぶん成長できると思います」とエールを送った。
「またここでプレーできることが嬉しい」
「やっとですね。2年半くらいなかったから。またここでプレーできるってことがまず嬉しいですよね」。移籍して3シーズン目。ようやくバンクーバーに戻ってきた。
バンクーバーについて「今になってここがすごい住みやすい場所だったなって、改めて感じますね」と笑った。北米で最初に住んだ町がバンクーバーだった。その時は「こんなもんかなって」と思ったが、ボストンに住んでみて「やっぱバンクーバーってよかったんだなって感じます」。そういう意味では、工藤選手の海外最初の町がバンクーバーというのは「すごいいい選択ですよ」と笑った。
今季でレボリューションとの契約が切れる。「できればアメリカのどこかでやりたいですけど」と北米でのプレーを模索する予定だ。バンクーバーの可能性については「来れるなら来たいですけど」と笑っていた。こればかりは本人の希望だけではどうにもならない。
北米で4季目。北米サッカーでの自分の役割も見えている。「まだまだ日本人の器用さだったり、賢さだったりは、やっぱそこが強みであり、チームの若いやつらにプレーで見せて教えるとかそういうことはまだできる」。北米のフィジカルなサッカースタイルの中でも日本人サッカーで適応できる。ボストンでも若い世代は、「技術がしっかりしいていい選手」と評価してくれるという。北米5大プロリーグ全て揃うボストンでサッカーは5番目。それでもサッカーの市民権は確実に上がっていると感じている。その北米サッカーの中で、日本人選手として日本サッカーで生き残っていく。それが次の日本人選手の北米移籍につながると信じている。日本でMLSが認知され、工藤選手のような日本人選手が北米に渡ってくることを期待している。
「大悟さんがバンクーバーにいたことは自分にとって大きい」
小林選手にインタビューしたこの日、実は工藤選手との対談を予定した。しかし、レボリューションの練習時間が変更になったため実現しなかった。そこで工藤選手には小林選手の印象、ケガした時の状況などを聞いた。
工藤選手にとって小林選手は「大先輩」という。小林選手によれば工藤選手がJリーグに入った頃にはすでに本人は海外に出ていて、Jリーグでの対戦はおそらくないと語った。そういう意味でも今回の対戦が実現しなかったのは残念だった。
「僕自身、日本にいる時に面識はなかったですけど」と工藤選手。それでも小林選手の活躍は知っていた。MLSに入団してからはアリゾナでのキャンプで顔を合わせた。その時最初の言葉が「よくこの年齢で来たね」だったと笑う。先輩面せず、気さくなのが小林選手。「フィジカルでなんとかしようっていうのはまず考えない方がいいよって」、そうアドバイスをもらった。「僕自身も分かってましたけど、長くやってる大悟さんにアドバイスいただいて、改めてフィジカルではなくしっかり賢くそれ以外のところで勝負しなきゃいけないなって。自分自身考えながら今年始まってからずっとプレーしてます」。
アドバイス以外でも「実際にこっちに来てホワイトキャップスに以前大悟さんがいてくれたっていうこと自体が僕にとっては大きかった」という。「日本人といえば、ダイゴ・コバヤシみたいな。一緒にやってた選手もまだいますし。ダイゴいつ来るんだって気にしてたみたいです」。
「復帰して結果を出したい」
小林選手からはケガをした時もすぐに連絡をもらったという。レボリューション戦には間に合わないことを告げると「『それよりもケガが早く良くなってくれればうれしいし』って言ってもらって」。
そのケガも予想以上の早い快復ぶりを見せている。今月13日にはチーム練習に合流。実戦練習はまだだが、フィジカルトレーナーとボールを使った練習をすでに始めている。状態を急ピッチで上げ、早ければ6月中の復帰を目指しているとこの時は語っていた。
ケガが起こった時のことは何も覚えていないという。ピッチでの最後の記憶はラバ選手からボールが来た所で、「次の記憶は病院だったんで」と屈託なく笑って振り返るが、あの時の状況を見た関係者やファンは心臓が止まる思いだっただろう。
負傷した顎には4本のボルトを埋め込み、ワイヤーで1カ月間固定。今月10日にワイヤーが外れた。あの事故からたった1カ月とは思えない快復ぶりだ。「すぐに相手の選手にもツイッター上ですけどメッセージを送りました。選手の対処、メディカルチームのサポートなどがあって今こうやって元気になっているので、ほんとそういう人たちのサポートにも感謝しています」。
チームが連勝できない不安定な状況で、これから出場が増えるだろうというタイミングでのケガに「その悔しさは僕自身も怪我した瞬間から感じてました」という。「元気にやってればもう少し出場時間とゴールもそこで増えてきてたのかなぁって悔しい部分はありますけど、復帰した時に悔しい気持ちとかをぶつけられればいいんじゃないかなって割り切ってます。その時に工藤が復帰して良かったって思ってもらえるように、しっかりと結果で証明していきたいと思います」と語った。
(取材 三島 直美 / 写真 斉藤 光一)
チームウェブサイトでは日本語講座も披露したと笑う小林選手。サイトはこちら www.revolutionsoccer.net/post/2016/02/05/learn-japanese-daigo?autoplay=true 。6月17日バンクーバー市内ホテルで
ケガの状況を説明する工藤選手。「柏にいる時は怪我したことがなかった」と自身でも今回の大けがに驚いていた。6月17日バンクーバー市内ホテルで
「DAIGO」はキャップスの時のまま。6月18日BCプレース
キャップスのマニー選手(左端)は小林選手に会えるのを楽しみにしていたという。レボリューションGKナイトン(後方)も元キャップスで、現在小林選手と遠征ルームメイト。6月18日BCプレース
試合後ロッカールームの前で。キャップスのロビンソン監督は小林選手在籍時はアシスタントコーチだった。当時のサッカー論と今のキャップスのサッカーはちょっと違うと感じているという。6月18日BCプレース
小林選手いわく、レボリューションにはブレザーがないのだとか。6月18日BCプレース
柏から応援に来ていた知人の森塚夫妻と工藤選手。ケガを見た時はびっくりしたけど、元気な姿を見られて「よかったなぁって思って」と笑顔。会場の雰囲気にも「いいですね」と感心していた。6月18日BCプレース
2人ともユニフォームで町を歩いていてもほとんど気づかれることはないと笑った。6月17日市内ホテルで
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