プエルトバヤータ
プエルトバヤータ(Puerto Vallarta)の綴りにあるLaは英語読みの「ラ」でなく、むしろ「ヤ」と発音する。スペイン語が公用語のメキシコは、英語に慣れた人にとって新鮮味溢れるエキゾチックな国とも言えるだろう。バンクーバーから飛行機で約5時間。年間を通して一番気候がいい11月から5月くらいまでは、旅行者で街も活気にあふれる。
コンドでの生活
ダウンタウンからバンデラス湾の南、ミスマロイヤ(Mismaloya)に向かう海岸線には、数々の美しいビーチが見え隠れする。このビーチに建つコンドミニアムは古いもので築35年。当時アメリカ人やカナダ人が別荘として購入した。物件によって賃貸可・不可の規則があるが、外国人に人気の秘密は管理がしっかりしていること。ある敷地内には10階建ての4棟に、現地従業員が60人。英語が達者な門番と管理事務員のほかに、警備や清掃担当のメキシカンが愛想良く働いている。 ここで秋から春までを過ごすリタイア族は、本当に元気だ。早朝、裸足で浜辺を歩いたりプールで泳いでいるのだが、誰もが目標回数を決めて往復しているのがわかる。毎年シカゴからひとりで来るという女性は88歳。太陽の下、こうした適度な運動が、元気でいられる秘訣なのだろう。カナダから1週間かけて運転してくる夫婦や、滞在中スペイン語クラスに通う人もいる。隣接のレストランの “ハッピーアワー”(ドリンクを注文すると1杯の値段で2杯出される)も夕暮れどきの楽しみのひとつ。
バスで出かけよう
市バスは7ペソ(カナダドルで70セント弱)で大人も子どもも同じ料金。風が吹き抜け、道はガタガタ。しかも窓ガラスが割れていたり手すりが壊れていたり。車内にロザリオや聖母マリアの写真が飾ってあり、メキシコ国民のほとんどがカトリック信者なのに気づく。 このおんぼろバスに乗り込んでくるのが“自称”エンターテイナー。マリアッチの楽団とかギター片手のセレナーデならまだ美しいだろうが、カセットレコーダーを抱え、声を張り上げて歌う。歌い終わると傍に寄ってくるので5ペソ(50セント弱)ほど渡す。貧しい人が多いメキシコでは、こんな風にチップで生活している人も多いのだから。
スーパーで買出し
長期滞在族の味方は、ダウンタウンのはずれにあるスーパー『リソー』。たいてのものは手に入るが、気づくのは値段の違い。例えばメキシコで作られたヨーグルトに比べ、『ヨープレート』などは輸入品のためダントツに高い。 アルコール・セクションにずらりと並ぶのはテキーラ。ハリスコ州テキーラ地区周辺で作られる竜舌蘭(りゅうぜつらん)の球根を蒸して発酵させて作るこの蒸留酒は、アルコール度約50%。マルガリータやテキーラ・サンライズなどのカクテルが代表的だ。ライムを添えて飲むメキシコのビール、コロナやパシフィコもここで買える。 飲み水は必ずボトル・ウォーターを購入。氷は水道水から作るところが多いので、レストランでは「氷抜きでお願いします(スィン・イエロ・ポルファボール)」と注文。サラダもどんな水で洗っているかわからないので、レストランによっては避けるのが無難だ。 スーパーの近くにはチキンのロースト(ソフト・トルティアと唐辛子がついてくる)を売る店ほか、新鮮な魚屋があるので、シュリンプのガーリック・バター炒めなどお手軽ディナーに最適。 長期滞在族はこのあたりで買出しをして、タクシーでコンドミニアムへ帰る。ちなみにタクシーは必ず行き先を告げ、乗る前に値段を交渉すること。
皇帝マキシミリアン (1832-1867)
メキシコにオーストリア出身の皇帝がいたのをご存知だろうか。1861年から1863年にメキシコへ軍を侵攻させたナポレオン3世は、オーストリア皇帝フランツ・ヨゼフの弟マキシミリアンをメキシコ皇帝に即位させた。理想を抱いて妻とメキシコに渡ったマキシミリアンだったが、フランス軍が撤去したことから処刑されてしまった。在位はわずか3年間。享年35歳。 この哀れな皇帝の名にちなみ名づけられたヨーロッパ風高級ビストロ『マキシミリアン』が、ダウンタウンの一角にある。メキシコ料理に飽きたら、オーストリア・チロル地方出身のオーナーが経営するこの店で、ウィーン風シュニッツェル(子牛のヒレ肉)やパイ包み焼きがお勧め。ショーツにサンダル履きの客には、店の外にカジュアル・テーブルが用意されている。
貧しさもしかり
あまり知られていなかったプエルト・バヤータを一気に有名にしたのがアメリカ映画『イグアナの夜』(1964年 ジョン・ヒューストン監督、リチャード・バートン主演)だ。撮影現場は漁村ミスマロイヤの丘の上。この映画を知る人が少ないように、以前あった丘の上のレストランも今は閉鎖され、立ち入り禁止になっていた。 反対側の丘には、海を見下ろす高級コンドミニアムやオール・インクルーシブのホテルが立ち並ぶ。以前はエリザベス・テイラ-とリチャ-ド・バ-トンの別荘もあった。 ミスマロイヤのバス停から山に向かい、埃の立つ小道を歩いていくとそこは別世界。両脇には小屋とも呼べそうな住居が並び、洗濯物を干した庭で手作業をする大人や、裸足で遊ぶ子どもたちを見かける。その周りにはやたらと犬や鶏が多い。どこのビーチにも始終リュックサックを背負って、貝のネックレスや木彫りの像を売り歩く行商人がいるが、彼らの住み家はこんなところなのかもしれない。 ごく一部の上流階級の白人ほかは、貧しい住民が多いこともメキシコの現状だ。だから少量のチップも、彼らにとっては大きな収入源となる。
旅行者が潤すメキシコの経済。旅の思い出を胸に、アディオス(さようなら)メキシコ!