バンクーバー・オペラ『蝶々夫人』で再びバンクーバーへ

2010年、バンクーバー・オペラ 『蝶々夫人』でカナダデビューしたソプラノ歌手、木下美穂子さん。叙情的な歌唱力と演技力で『蝶々夫人』のタイトルロールを演じるたびに世界中で高い評価を受けている。 前回の公演では陶芸家の金子潤さんによる斬新な衣装と舞台デザインが話題を呼んだが、今回は伝統的な舞台設定で1890 年代の長崎へと導いてくれる。

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ソプラノ歌手、木下美穂子さん(撮影:auraY2. Yoshinobu Fukaya)

 

日本情緒あふれる旋律も

 『椿姫』(ヴェルディ)、『カルメン』(ビゼー)とともに世界3大オペラとも呼ばれるイタリアオペラの代表作品『蝶々夫人』(プッチーニ)は、米国海軍士官のピンカートンと現地妻蝶々さんの悲恋のストーリー。ところどころにちりばめた『君が代』、『お江戸日本橋』や『さくらさくら』など、日本情緒あふれる旋律に親近感を覚える人も多いことだろう。

 舞台に上がったら終幕まで降りることなく、2時間以上ほとんど歌い続けるタイトルロール。優美なアリア『ある晴れた日に』はあまりにも有名だ。今回は木下美穂子さんとハン・ジヘ(Jee-Hye Han)さんのダブルキャストなので、それぞれの出演日をお間違いなく。

 公演に先駆け、木下さんに話を聞いた。

6年間のイタリア留学

 中学生のとき本格的に声楽を始め、プロのオペラ歌手を目指したのは大学に入ってから。コンクールで賞を取り、留学したイタリア・ローマで6年暮らした。

 「最初の数年はレッスン、レッスン、とにかく勉強の日々でした。往年の名ソプラノ歌手のレッスンに電車で5〜6時間かけて通ったり、ストライキでその日のうちに到着できなかったりなど思い出がいっぱいあります」

 木下さんの声ソプラノリリコは、オペラの役に多い音域である。 「とてもロマンティックで "おいしい役" どころの声です。これまで演じてきた役の9割、私は最後に死にます…。いい役が多いですが激戦区でもありますので、非常に激しい音域でもあります」

アメリカの聴衆

 その後イタリア各地のコンクールでさまざまな賞を受賞。特に、イタリア・ブッセートのヴェルディ国際コンクール2位と、ニューヨークのリチーア・アルバネーゼ・プッチーニ・コンクール1位受賞をきっかけに海外でのキャリアを開始。2007年に拠点をアメリカに移した。

 「ヨーロッパとアメリカではお客さまの反応がまったく違い、非常に驚きました。面白いシーンとかで爆笑するのです。きっとアメリカの聴衆はオペラを総合的に楽しんでいるのでしょうね。すっかりその感覚に慣れてしまい、たまに日本で歌うとき、ちょっと物足りなさを感じるほどです(笑)」

グラバー邸で歌ったこと

 デビュー間もないころNHKの音楽番組に出演し、録音したオーケストラをバックに着物を着て長崎のグラバー邸で歌ったことがある。

 「庭園から港が見え、船が汽笛を鳴らしながら入ってくるのですよ。自分が本当に蝶々さんになってピンカートンの帰りを待っている気分でした」

 これまで50回ほど歌ってきた『蝶々夫人』だが、もちろん演出家やプロダクションによって大きく変わる。

 「日本で栗山昌良先生にご指導いただき身につけた日本の所作や立ち振る舞いは、私の蝶々さんを演じる上でベースになっています。それでも、演出家によっては蝶々さんのアプローチが私とは異なったりということもありますので、演出家の意図を理解するように努力しつつ歩み寄ることをしています。そういう意味で何十回歌ってもルーティンになることはなく、毎回挑戦ですね」

デビューして13年

 昨年11月に待望のデビューアルバム『Il Cuoreイル・クオーレ 心』がオクタヴィアレコードから発売された。木下さんが最も得意としているオペラアリアをほぼ収録。プッチーニやヴェルディのオペラから今後挑戦していきたいノルマなど幅広い選曲だ。

 「日々世界中で起こっているさまざまな争いや災害で苦しんでいる方々に祈りと心を込めて宗教曲を2曲入れ、今この歌を通じて心に何かを感じていただけたらという思いでこのタイトルにいたしました」

 1月にはベートーベンの『フィデリオ』のタイトルロールを歌い、ドイツオペラデビューを果たした。「大変な思いをしましたが、ドイツオペラも素敵ですよね。今後はゆっくりゆっくりワーグナーやシュトラウスなども視野に入れていきます」

 来年は東京で、念願のトスカを歌うことが決まっている。

これぞイタリアオペラ!

 オペラ歌手のご主人との間に昨年第一子を出産。『蝶々夫人』では最後に子どもと別れるシーンがあり、そこで歌うアリアが『かわいい坊や』だ。

「今回、息子を持って初めてこのオペラに挑みます。今後リハーサルを経て、本番でどのような気持ちになるのか私自身もとても楽しみな部分です」

「再びバンクーバーオペラで歌えることが楽しみです!『蝶々夫人』は音楽がとにかく素晴らしい! これぞイタリアオペラという音楽をぜひ堪能してください。日本が舞台のストーリーですので、多くの日本人の方々にぜひ足を運んでいただけたらと思っています」

(取材 ルイーズ 阿久沢)

 

きのした・みほこ:

鹿児島県出身。大分県立芸術短期大学、武蔵野音楽大学卒業。同大学院修了。二期会オペラスタジオ・マスタークラス修了。2001年第70回日本音楽コンクール声楽部門1位・松下賞。第37回日伊声楽コンコルソ1位、第32回イタリア声楽コンコルソ・シエナ大賞を相次いで受賞し、国内三大声楽コンクールの三冠王として話題を呼んだ。2006年ヴェルディ国際コンクール(イタリア・ブッセート)2位、2007年、リチーア・アルバネーゼ・プッチーニ国際コンクール(ニューヨーク)1位など受賞暦多数。2002年、小澤征璽指揮『ドン・ジョバンニ』ドンナ・エルヴィーラでデビュー以来、東京二期会オペラ、サンタ・マルゲリータオペラフェスティバル、ボルティモアオペラ、ミシガンオペラ、ロンドンロイヤルアルバートホールなどで『蝶々夫人』タイトルロールを演じ喝采を浴びて以来、国内外で高い評価を受けている。ヒューストン在住。二期会会員

 

バンクーバー・オペラ

MADAMA BUTTERFLY 『蝶々夫人』

クイーンエリザベス劇場

3月5、10、12日(木下美穂子主演)

3月6、11、13日(ハン・ジヘ主演)

開演:平日は7:30pm、日曜は2:00pm

チケット:www.vancouveropera.ca

電話 (604)683-0222

 

 

 

東京二期会 オペラ『蝶々夫人』より(写真提供:東京二期会オペラ劇場)

 

東京二期会 オペラ『蝶々夫人』より(写真提供:東京二期会オペラ劇場)

 

昨年4月にパシフィック・オペラ・ビクトリアで共演したハン・ジヘ(蝶々さん)とアダム・ルサー(ピンカートン)が今公演でも共演する(写真提供:パシフィック・オペラ・ビクトリア)

 

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これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。