林家三平 in Vancouver 開催

11月10日、日系文化センター・博物館で『林家三平in Vancouver』(日系プレース基金主催・全日空後援)が開催された。 二代林家三平夫人で女優の国分佐智子さんが司会を努め、エッセイストで母親の海老名香葉子さんの話、シンガーソングライターで姉の泰葉さんの歌、三平師匠の落語などバラエティーに富んだ内容に、来賓の在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏・寧子夫妻ほか観客約250人が手拍子を打ったり笑ったり、林家ファミリーとの夕べを楽しんだ。

 

江戸落語を披露した二代林家三平師匠。次回は英語落語でバンクーバーを再訪したいと話している

 

平和への願い ~ 海老名香葉子

 初代林家三平師匠夫人でエッセイストの海老名香葉子さんは現在82歳。1980年、夫の逝去後はテレビのコメンテーター、エッセイスト、講演活動と幅広く活躍し、一門を支えてきた。

 「カナダに行って山を見てみたい、海を見てみたいと願っていました。総領事さまから、日系のみなさまの開拓のご苦労や戦争中のお話を伺い、どれだけの苦しみをなさったかと推測いたします」と話した。

 「昭和20年3月の東京大空襲では東京が2時間猛火に包まれ、10万人から13・14万人もの人たちが亡くなりました。私も兄ひとりを除き家族6人を失い、戦災孤児となりました。命の尊さ、生きながらえて今日を迎えたことを覚え、逝った方たちのご冥福をお祈りします」と語った。

 平成17年に上野公園内に慰霊碑及び平和の母子像を建立し、毎年3月9日には平和を願う人たちとともに『時忘れじの集い』の供養式を主催。戦争の悲惨さと平和の尊さを伝える講演に力を入れている。

 

映画『さくら花』の主題歌『桜舞う日は』泰葉

 コンサートの部は長井明(VSO終身名誉コンサートマスター)・せり夫妻による『ヴォカリース』(ラフマニノフ)と『タイスの瞑想曲』。しっとりとしたバイオリンの音色で幕開けした。

 続いてさくら色のドレスに身を包んだシンガーソングライターの泰葉さんが登場。伴奏は長井明さんの提案でピアノ・クインテット(五重奏)が結成され、指の怪我でピアニスト志望から指揮者に転向したケン・シェさんがこの公演のためにピアノを猛練習し、泰葉さんの歌に合わせてポップスやスウィングを演奏した。

 2年前より新たな音楽活動を開始した泰葉さんは、今秋公開の映画『さくら花』の主題歌『桜舞う日は』を歌いあげた。この曲は香葉子さんが東京大空襲で亡くなった母と夢の中で出会い涙した話を元に泰葉さんが歌にしたもので、戦後70年の今年、母娘で講演と歌の公演も行われた。

 1981年のデビュー曲『フライデーチャイナタウン』(日本有線大賞新人賞受賞曲)が始まると会場から手拍子が加わり、客席から「懐かしい!」との声も。アンコールではベートーベンの『第九交響曲』を凝縮した『よろこびのうた』でソプラノボイスも披露し、充実したステージを展開した。 

 

笑いの世界へ ~ 二代林家三平 ~

 林家三平師匠は初代林家三平の次男として生まれ、祖父は七代目林家正蔵、兄は九代林家正蔵。1990年に林家いっ平として落語家の修行に入り、2009年に二代林家三平を襲名した。テレビドラマ『水戸黄門』のレギュラー出演ほか、映画『さくら花』に特攻隊として出演している。

 大阪の上方落語に対し、東京では江戸落語。公演に先立ち「上方は町人の話が七割ですが、江戸落語では侍とか武士の話が多いです。座布団ひとつで見台(けんだい)も使わず、舞台設定はいたってシンプルです」と説明してくれた。

 1999年にはシンガポールで、江戸落語では初となる英語落語を披露。そのきっかけはクイズ番組で「オー、マイゴッド!」と答えたとき。ゲスト出演していた俳優のトム・ハンクスから、演技が素晴らしいと褒められたことから英語落語を試みたという。

 寄席では40人もの噺家が出るため、同じ内容にならないよう最低でも15か20は頭に入れてあるそうで、どの演目にするかは当日お客さんの様子を見て決める。

 落語の本題に入る前の枕(まくら)では、落語家の話題や母・香葉子さんの話で笑いを誘いながら、いつの間にか演目『紀州』『みそ豆』に移っていた。特に古典落語『みそ豆』は9歳のときに亡くなった父から6歳か7歳のときに唯一教わった小話だそうで、扇子を使っておいしそうにみそ豆を食べる動作が印象的だった。

 

念願のカナダ公演

 開会の挨拶で岡田誠司総領事が「4年前に指揮者のケン・シェさんと三平師匠が九州交響楽団のツアーで知り合ったことから、カナダ公演が企画されたそうです」と説明したように、家族のような付き合いのケン・シェさんの故郷カナダに行ってみたいという香葉子さんの願いから、三平師匠が「母が元気なうちに」と望んだもので、日系センター運営のためのファンドレイジングとして開催された。

 幕が閉じた後、家族全員でステージに並び、国分佐智子さんに支えられながら、ボランティアで参加した出演者やスタッフ、観客に何度もお礼の言葉を述べた香葉子さん。「私の話が長くなると、みなさんお疲れになるから」と気遣いして短めに話したそうだが、リメンバランス・デーの前夜、平和への願いはバンクーバーの観客に十分に伝わったことだろう。  

(取材 ルイーズ 阿久沢 / 撮影 中村 みゆき)

 

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昭和20年3月の東京大空襲で戦災孤児になった体験と平和への願いを語った海老名香葉子さん

バンクーバーの演奏家らと共演し、ヒット曲『フライデーチャイナタウン』ほかを歌った泰葉さん

最後は林家ファミリー全員で挨拶(撮影 ルイーズ阿久沢)

機転を利かせて司会進行を務めた国分佐智子さん

開会の挨拶をした在バンクーバー日本国総領事・岡田誠司氏

 

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