夏風に爽やかなブラジル音楽 ギタリスト・中島有二郎さん
カフェで流れているボサノバやサンバのブラジル音楽。ジャズのフュージョンともいえるような独特の音色で夏を涼しくしてくれる。毎年バンクーバーのジャズ・フェスティバルや夏祭りなどでおなじみの中島有二郎さんは、日本やカナダなど国際的に幅広く活躍しているプロのブラジリアン・ギタリスト。彼の奏でるアコースティックギターはとても繊細で聴き心地が良い。今回、ブラジリアンレストラン、Boteco Brasilで演奏スタンバイ中の中島さんに話を聞いた。
インタビューはBoteco 店内で
建築から音楽へ転向
「『ボサノバ』という言葉はすごく有名ですが、あれはリオで演奏されている音楽で、ブラジル音楽の中ではほんの一部です」と話す中島さん。天然ウェーブの髪や肌の色が一見ブラジル風を思わせる中島さんは長野県出身の日本人。クラシック音楽好きのお父さんの影響で兄弟全員ピアノを習わされたが、自分だけ途中でやめてサッカーに転向した。そんな中島さんが初めて音楽に興味を持ったのは、中学校時代に映画館でフィルム・コンサートとして観たビートルズだった。15歳でレコードを買い、独学でギターを始めた。高校時代のギター雑誌はハードロックやメタル系が主流だったが、17歳の時、野外コンサートで来日したジェフ・ベックに遭遇。このライブの衝撃について「ジェフ・ベックは即興で、しかもジャズ的な要素をロックの音で弾くんです」と興奮気味に語る。そして「当時音楽を演奏できるのは文化祭しかなかったでしょ?」と笑わせて「ディープパープルでも何でも弾くから一曲だけジェフ・ベックをやらせてくれ、と他のバンドメンバーに頼んだんです」と語った。
しかし「アートや音楽では食べていけない」と教えられた世代だったので、大学では建築学科を専攻し、部活としてジェフ・ベック風な音楽の作曲をした。大学卒業後も建築会社でなく、オーダー・メード・ギターの設計技師として働きながらギターを弾いた。ある日作曲家で指揮者の大森久雄氏に出会い、付き人になりプロの音楽家を意識するようになる。自分をアマチュアだと認めるぐらいプロとの技術の差を感じたので、ジャズギタリストの高嶋宏氏に師事してレッスンを重ねる。
Liam MacDonald さんとのデュオはとても人気がある
曲がり道の先は大好きなブラジル音楽
東京でジャズを中心としたプロ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートした中島さん。『ハコバン』(注:生演奏のライブハウスやキャバレーなどに専属で演奏するバンド)として演奏を続け、ファンハウス社からプロとしてデビューする寸前までいった。しかし、流しで曲の合間に弾くボサノバなど、ブラジル音楽に癒された。それからは次第に独学でブラジル音楽を弾くのが楽しみになり、ジャズで成功していた日本を離れる決心をする。
35歳でカナダに移住し、遅咲きともいえるブラジル音楽転身だったが、ソロギター・フェスティバルで2年連続ブラジルギタリスト代表に選ばれ、ブラジリアン・パーカッションの第一人者であるLiam MacDonaldさんとのデュオでアルバムを発売した。現在バンクーバーでブラジル音楽を聴くならこのデュオで、といわれるぐらいになった。
取材の日、Boteco Brasilは常連という感じのブラジル人の男性たち、座ったまま体を揺らして聴いている数組の夫婦、若い日本人女性のグループなど幅広い客層だった。彼らは7時のライブに合わせて予約を取っていた。雑誌を読んでいても友達と話していても邪魔にならずにスーッと溶け込むようなブラジル音楽。ぜひこの夏、生のライブを体験してほしい。
今後もバンクーバーでの活躍が大いに期待される中島さん。彼の日本公演スケジュールはhttps://www.facebook.com/yujiro2015まで。
パウエル祭でもおなじみ
(取材 ジェナ・パーク)
~気分に合わせて昼下がりのジャズや夜のボサノバを満喫~
中島さんのブラジル音楽及びプロの生演奏が聴けるスポット
Boteco Brasil
(2545 Nanaimo Street, 778-379-7995、ブラジル)
バンクーバーの「ブラジル」といえばこのレストラン。フルーツジュース(スムージー)も飲める。ライブの日は要予約。
ブラジル・レストラン・Boteco
Boteco の店内もブラジル・カラー
The Main
(4210 Main, 604-709-8555、地中海、ピザ、パスタ)
メイン・ストリートのお洒落な一角にあり、ドリンクに立ち寄りたい雰囲気のお店。水・木・金・土の夜に加えて、ジャズを聴きながらの日曜ブランチもスタートするそうだ。
内装が素敵なThe Main
The Naam
(2724 West 4th, 604-738-7151、ベジタリアン、オーガニック、メキシカン)
24時間営業で年中無休という1968年の創立以来、数々の賞を受賞しているキツラノのお店。料理はボリュームたっぷりで、テラスもあり、連日ソロ・ミュージシャンの音楽が聴ける。
中が意外に大きいThe Naam
Tangent Cafe
(2095 Commercial Drive, 604-558-4641、バーガー、朝食、マレーシア)
カントリーなどいろいろな音楽が聴ける。ジャズは木曜日の夜と日曜日の昼。
ステージが外から見えるTangent Cafe