脳トレ+愛情で子供の能力を引き出すー七田式教育の場合ー
運動の世界では当たり前になってきているイメージトレーニング。その効果の検証が専門家によって盛んに行われている。引き寄せの法則など、願望達成に関する本でもイメージを思い描くこと、ビジュアライゼーションは頻繁に登場する方法である。しかし教育の場面ではどうだろう。 イメージトレーニングをはじめとした手法を子供の能力開発に役立てているスクールがバーナビーにあるが、そこでは特に四つの能力の向上に重きを置いている。それは通常の学校教育の中ではほとんど取り上げてこなかった学習効果を上げる能力である。
高橋容子先生の2歳児クラスにてー先生と同じようにブロックを積む遊びをする子供たち
よく脳の働きを簡略化して紹介する際に、左脳が論理的思考で右脳がイメージを司ると言われることがあるが、その「右脳的」な力の開発にフォーカスしている。
イメージの情報処理は高速、 高速情報はイメージ処理に
脳がイメージで受け取った情報は言語を介さず処理されるため、素早く頭に入り、記憶としても定着しやすい。また大量の情報を一度に受け取ろうとする時(高速で入ってきた情報を処理しようとする時)は、最初に起動する、言語を介した処理が低速で追いつかなくなり、イメージのように取り込む高速処理に切り替わるのだという。
こうした脳の働きに注目した教育を行うスクールは、日本の七田眞さんが始めた教室である。そのカナダ校である七田キッズアカデミーの校長・高橋容子さんは、クラスでトレーニングを積んだ生徒たちが発揮する速読力や計算の速さ、円周率を千桁言える記憶力などを目の当たりにしてきたという。
実際にどうやって脳のトレーニングをしていくのか。記者はクラスを見学してみた。
<2歳児クラスの様子>
『こんにちはの歌』でスタートした後は、先生の呼びかけに応じて自己紹介。そして先生は子供たちの前に置いた三つのカスタネットを指差しながら「右、左、真ん中」と軽快に呼び上げる。子供たちも一緒の動作をするよう促すけれど、できたかどうかは気にせず、「よくできました!」とその都度ほめて励ましながら明るく進めていく。
見本通りに野菜のカードを冷蔵庫のイラストの中に入れる遊びなど、数分での取り組みメニューが次々続く。「年齢プラス1分」が子供が1度に集中できる時間だという。
特徴的な遊びだったのが「フラッシュカード」。文字とイラストの2枚1組のカードを「りんご、りんご、にんじん、にんじん」と先生が読み上げながら1秒に2枚のテンポで次々めくって見せていく。1回のレッスンで扱うのは約300枚。高速に大量に情報を取り込むことでイメージ記憶になるという脳の仕組みを生かした取り組み例だ。
クラス内容全体から受けた印象は、少し背伸びをした内容に思い切って触れさせていること。しかし子供たちはレベルの高さを気にしている様子はない。60分のクラスの間、嬉々として物をつかんで動かしたり、歌の時間には、体を揺らして楽しんだりしていた。また幼いながらもクラスの間、集中していられるのは、多くの励ましとテンポの良い進行、興味を惹き付ける内容によるものだと感じた。
<6歳児のクラスの様子>
イメージ記憶を促すための遊びにこんなものがあった。色のカードを見て、『赤→いちご』と各色から連想するものを発表させて、それを次々に繋げて記憶し一つのストーリーを作っていくというもの。これは発想力・思考力のトレーニングにもなっているようだ。記者も一緒に覚えようと取り組んでみたが、そう簡単なものではなかった。
6歳児向けのフラッシュカードには反対語や難読漢字、足し算や掛け算、偉人や国旗などが取り上げられていた。また中学レベルの理科、社会などの学習内容が歌詞になっている曲を歌う時間もあった。歌もフラッシュカードも、意味の理解や解釈を飛び越し、情報を浴び、直接体に身につけていく方法のようだ。そしてここに中学レベルのことは中学で、という発想はないといえるだろう。
またレッスンでは、パズルやブロックを戯れながら作っていき、完成に満足気な子供たちの姿も見られた。4歳以上のクラスではこうした楽しい取り組みを通じて思考力、分析力、判断力などの「左脳的」な能力の向上にも力を入れているのだという。
<小学生のクラスの様子>
最初の課題はいろいろな車が描かれたプリント。「スタート!」で、子供たちは勢い良く同じものに丸を付け始めた。トレーニングの多くは設定時間が2分。その時間内にルールに沿って絵を数字に変換するなど、処理能力を高める訓練に次々と取り組んでいった。その後は50枚以上のカードをストーリーにして記憶したり、数字や文字、絵などを一瞬で覚えるトレーニングへ。後半は思考力、問題解決力を高める課題も。見学しているだけでも学習量の多さに驚くが、クラスの終了時には子供たちから「脳みそがヘトヘトだ」と感想が。それでもこなしていけるのは全体にゲーム感覚で取り組めるからだろう。
教室の指導を続けて ーー高橋容子さんに聞く
子供の能力の高さに驚き
初めて幼児クラスを見学した際、子供たちが漢字や県庁の名前などをすっかり覚えて楽しそうに言っている姿に衝撃を受けました。自分もそうした楽しい気持ちで能力を引き出すことを、いつも念頭に置いています。
20年以上講師として、多くの子供たちを見てきて驚くのは、幼児の能力の高さです。例えば赤ちゃんは勉強しなくても2歳になったら自然に話し出します。話している人の表情や言葉の抑揚などから意味を感じて、聞こえたことを感覚的に吸収していくのです。そして幼児は好奇心旺盛。でも大きくなるにつれて、新しいことを学ぶのが億劫になっていきますよね。それは親に叱られたり、点数で評価されたりと、学ぶことにマイナスのイメージがついてしまうからです。ですが、何でもやりたい幼児期に、その好奇心が満たされ、たくさん褒めてもらい、学ぶことが楽しいと感じる経験を重ねると、その子の自信となります。
教室では00から99の数字をイメージにして覚えますが、そのイメージを使ってストーリーにすると、1度に長い数字も全部覚えられます。イメージを描く力によって、勉強だけでなく、アートや音楽、スポーツの分野でも特別な力を発揮している生徒を何人も見てきました。
また小さいうちに脳の質と言いますか、脳の処理能力を上げておくと、何事に取り組む際も余裕が持て、時にはスローモーションのように感じられるため、楽に大きな成果を出せるようになります。
子供の教育に一番大事なのは 親子の愛情と信頼関係
親は子どもの短所を見がちですが、お子さんが才能を開花させていくためには、ご両親の愛情と信頼が一番大事です。あるがままを受け入れて、お子さんのいいところをたくさん見つけて、ほめてあげてくださればと思います。
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こう語った高橋さんに「逆に叱れない親もいると聞きますが」と尋ねたところ、「叱ることについては感情のままに怒るのでなく、大事なことを伝えるための行為だと、違いを理解していただきたいですね。思考力のついてくる4歳以降はきちんと家庭でのルールや叱った理由を伝えることが大切です。子供は親の弱みを見抜く天才ですので『泣けば許してくれる』などとコントロールされているのは親の方かもしれません。これがエスカレートすると10代になってからが大変です。かわいさのために何でも許してしまいがちですが、きちんと目線を合わせて、真面目な表情とトーンでしっかりと伝えることが大事です」と詳しい育児のアドバイスが返ってきた。
現在は本校の講師の一人である岩崎万里さんは、自身の子供をクラスに通わせる中で得た子育ての指針が支えになったと語る。
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取材を通じて感じたのは、教室に明るく楽しい雰囲気と、子供たちのがんばりを認める思いがあふれていたこと。誰もがほめられればうれしい。そうした心地よい刺激の中で、自分自身のイメージ、将来の夢のイメージもどんどん膨らんでいくことだろう。
(取材 平野香利)
生徒のカズ君、ケン君に一番好きな遊びを尋ねると、二人は「同じ絵を探すゲーム!」と元気に答えてくれた