「メープル街道」はどこにある?

日本からカナダへやってくる旅行者に最も有名なエリアといえば、カナディアンロッキーと「メープル街道」だろう。ところが、カナダ人にメープル街道と言っても、知っている人はほとんどいない。実はメープル街道というのは、日本の旅行業界が創りだした名称だからだ。ナイアガラからモントリオールを通り、セントローレンス川沿いにケベックシティまでたどるのが、日本からの紅葉ツアーの定番。歴史好きのカナダ人なら一度は旅したいと憧れる「ヘリティッジ・ハイウエイ」の一部が「メープル街道」として日本では知られているのだ。最近は、この定番ルートに、モントリオールの北西に広がるロレンシャン高原を加えたり、トロントの北東にあるアルゴンキン州立公園でのハイキングなどを目玉にしたツアーも増えている。

 

紅葉を満喫するタイミングは?

メープル街道を旅する醍醐味は、大地が燃え上がるような紅葉の美しさをたっぷりと楽しめること。では、いつ旅立つのがベストだろう?日本からのツアーの設定は、だいたい9月20日から10月10日ごろまでだが、紅葉のピークはその年の気候しだいで10日ぐらい前後することがある。また、一口に「メープル街道」といっても、非常に範囲が広く、標高も大きく違う。例年だと、最も北に位置するケベックシティのサンタンヌ山周辺や、ロレンシャン高原のトランブラン山周辺から紅葉が始まるが、その辺りがピークを迎えていても、オタワの町の中やナイアガラ周辺の木々はまだ薄緑色に変わったばかりということが多い。旅をしていくうちに様々な彩りに変化する紅葉こそ、メープル街道の本当の楽しさだ。
9月下旬なら、ケベックシティ周辺からスタートしてセントローレンス川沿いに南下し、モントリオールからロレンシャン高原中心のルートがおすすめ。10月5日を過ぎたら、オタワやトロントの街中の公園や街路樹が美しくなるので、高原や山地は外した方が良いだろう。ほとんどのエリアでピークが終わっても、まだナイアガラ周辺なら十分にチャンスがある。

 

自分たちだけの紅葉を探そう!

紅葉の時期は日本からはもちろん、カナダ国内、アメリカからもメープル街道周辺にたくさんの観光客がやって来る。ケベックシティのシャトー・フロントナックのように、ロビーが団体客でいっぱいになる有名ホテルをはじめ、サウザンド・アイランドのクルーズ船も満員、メープルシロップの収穫小屋での食事もギュウギュウ詰め…などなど、人気のある観光ポイントでは秋の旅情を静かに味わうのは少々むずかしい。ロレンシャン高原のトランブラン山の山頂からは、文字通り地平線まで続く紅葉の大地を見渡せるし、落ち葉の舞うモントリオールの旧市街のたたずまいも忘れ難い。しかし、せっかく広大なカナダで紅葉を楽しむなら、定番の観光ポイントから少しはずれ、観光客の少ないところで自分たちだけの特別な思い出を作るのがベストだろう。
例えばケベックシティなら、旧市街だけでなく、郊外のサンタンヌ滝のある渓谷まで足を延ばすのがおすすめ。何段にも分かれて流れ落ちる滝に赤やオレンジの木の葉が舞う様子は心に残る。また、ケベックシティからセントローレンス川の対岸へ渡り、ニューブランズウィック(NB)州へ向かうルートも素晴らしい。川沿いに点在する小さな村で、地元のアーティストの工房やギャラリーを訪れるのもいい。楓にはたくさんの種類があり、NB州など大西洋諸州の木々はケベック州やオンタリオ州とは違うものが多い。その紅葉はパステル画のように柔らかな色合い。可愛らしいB&Bに泊まりながら、ゆったりと旅してみたい。

 

トロント周辺のセレブたちの別荘地として知られているムスコカ地方も、静かな秋を満喫できるエリアだ。『赤毛のアン』の作者モンゴメリーも、ムスコカにあるベラという町に住んでいたことがあり、このエリアの秋の美しさを愛していたという。グループ・オブ・セブンと呼ばれる、カナダを代表する画家たちが好んで秋景色を描いたヒューロン湖のジョージアンベイ周辺も注目したい。サウザンド・アイランドで混み合った船に乗るのも良いが、宝石のように彩られた小さな島が点在するジョージアンベイで、ゴージャスなヨットのディナークルーズはどうだろう?ホテルなら、オタワの郊外にある世界最大のログハウス、シャトー・モンテベローがおすすめ。夕日を浴びながらオタワ川の岸辺を散策したり、大きな暖炉の前でくつろいだり、ヨーロッパの貴族たちにも愛されてきたホテルならではの贅沢なひとときを味わえるだろう。

 

秋景色の街歩きならオタワ

見渡す限りの鮮やかな紅葉もカナダらしいが、街中の公園や街路樹がさまざまな色に染め上げられているのを眺めながら散策するのも、しみじみとした旅情を味わえる。メープル街道で一番のおすすめはカナダの首都オタワだ。オタワ市内には大小の公園が点在しているが、なかでも総督公邸(リドーホール)の庭園が素晴らしい。カナダ全土から集められた木々が微妙な色合いの違いを見せながら紅葉しているのに出会えるだろう。各国大使の公邸が並ぶ高級住宅街の庭を眺めながら歩くのも楽しいし、自転車を借りてリドー運河沿いにサイクリングをするのも良い。国会議事堂の裏にある展望台から眺めるオタワ川周辺も印象的。自然の木々を眺めるだけではなく、国立美術館でグループ・オブ・セブンの画家たちがキャンバスに描いた秋景色も味わってみたい。

 

 

街の中がまだ十分に紅葉していないなら、オタワ川の対岸、ケベック州側に広がるガティノー公園へ行ってみよう。公園内にあるマッケンジー・キング元首相の別荘跡には、オカルト趣味があったと言われるキング氏が、「秘密の庭園」と名付けて自ら手入れをしていたという神秘的な庭があり、大きく枝を広げた木々の紅葉が見事だ。
最近、「メープル街道」はヘリティッジ・ハイウエイの周辺だけでなく、より広範囲な地域を示す言葉になっている。有名な観光ポイントだけでなく、寄り道や遠回りで偶然に出会う紅葉の美しさは特別な思い出になるだろう。なお、ツアーに入るなら、先住民の文化やカナダ建国の歴史に詳しいガイドがついている企画が望ましい。鮮やかな紅葉の色あいだけではなく、そこで暮らす人々の歴史や文化を知れば、旅に広がりが生まれ、心に残る思いも深くなる。

 

 

(取材 宮田麻未)

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