2020年2月6日 第6号

東京出身の会田由紀(あいだゆき)さんは、渡加してさまざまな体験を経た後にアーティストになる道を選んだ。アーティストへの道のりについて由紀さんに話を聞いた。

 

バンクーバー・ジャズフェスティバルに参加する際に制作したマイルス・デイビスの肖像画をアトリエで描いている由紀さん

 

カナダに来たきっかけは?

 美術大学受験失敗を機にアーティストになる夢を捨て真っ当な道を歩んでいましたが、しっくりいきませんでした。自分探しの人生もあまりうまくいかなかった時に家族がバンクーバーに投資することになり、そのご縁で初めてバンクーバーに来ました。

渡加してからの活動は?

 ビジネススクールに通い、その後、自分で起業して語学スクールおよびホームステイコーディネートなどもしていました。そして、結婚して二児の母になったのですが、幸せも束の間。まさかの離婚という顛末に。うつ病になり事業も手放し、途方に暮れました。

 なんとか立ち直り、新たに調理学校 (パン・パシフィック・カルナリー・アーツ)に入学しました。卒業後はレストラン、ケータリングでシェフとして働きました。そして、出会いがあり再婚して妊娠しましたが妊娠中毒症になり、せっかくキャリアを積んでいたキッチンで働く仕事をリタイアすることに。

 出産後は育児をしながら大学(クワントレン・ポリテクニック・ユニバーシティー)で臨床心理学を専攻しました。

アーティストへの道のりは?

 大学在学中に単位取得のために取った美術の講義で自分がアーティストになりたかったことを思いだしました (笑)。教授の勧めもあり、在学中にアートのコンクールや公募に作品を意欲的に発表しました。のちに地元のアーティストにも師事して本格的に絵を描くようになりますが、またしても離婚することに。

 また人生どん底になりましたが、その頃は多くのバンクーバー在住日本人アーティストさんたちに出会い刺激を受けていたので、アートに視点を集中させることができました。同時に数々の展覧会や日本での個展、そしてバンクーバーでの個展も実現し、アーティストとしての道を本格的に歩み始めました。

現在のご活動は?

 離婚の打撃からもすっかり立ち直り、再出発のためにバンクーバーを後にしてノースバンクーバーへ引っ越しました。購入した新居は2020年の春から改築を始めてアトリエ、ギャラリー兼イベントスペースのある自宅にリニューアルする予定です。改装後から意欲的に活動する予定ですが、現在はお仕事頂いているコミッション以外の制作活動は充電中です。

 辛かった子供時代、人生に迷い結婚離婚を繰り返し、子育ての苦しさやうつ病とも闘ってきましたが、アートが支えてくれた人生。なんとかここで丸く収まったような気がしています。  

これからの抱負は?

 只今構築している抽象画を自宅改装後のアトリエで、描きたいです。そして、詩人の高山宙丸さんとのコラボレーションのプロジェクトも動き出していて、とても楽しみです。また、バンクーバーを代表する若手シェフ星子ひろしさんと始めた私が発起人および女将を務めているグルメ倶楽部が、殊の外好評で嬉しいです。こちらは趣味ですが、これからも美食追求に全力投球していきたいと思っています。

バンクーバー新報の読者に一言

 カナダに来て30年ほど経ちます。私のような人間を受け入れてくれたのも30年前だったからかもしれません。長い年月の中で自分は生きる価値がないと思うこともあったし、幸せだと思っていたことが幻であったと気づく経験をしました。

 バンクーバーで生きる皆さんもそれぞれいろいろな道を辿り今を生きられていると思います。雨が多かったり、恐ろしく段取りが悪くてイラッとくることも多いですが、このバンクーバーという地が私たちを受け入れて、学びの場を作ってくれたことに心から感謝しなくてはいけないのかもしれないですね。ありがとう、バンクーバー♡

(取材 北風かんな)

 

2018年12月に開催されたバンクーバーの個展で作品と共に

 

絵の勉強やジャズ・ミュージシャンのポートレートを描く仕事で訪れるニューヨークのメトロポリタン美術館でスケッチ中の由紀さん

 

会田由紀さん近影

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。