「暖炉の上の飾りに、生まれ育った場所の景色を彫り込んでほしい」「大好きなペットの姿を彫ってほしい」。オーダーメイドでの制作は、つねに新しいものへのチャレンジだ。顧客の意向を聞き尽くし、資料を集めて出来上がりをイメージする。デッサンを素材に書き写し、彫る。削る。書いた線が無くなっていくと、そこからは「手さぐり状態」。彫り進めて、頭に描いた姿が浮き上がってくるまでの中間工程が「一番難しく、大切です」と河野守行さんは言う。
普通に存在するものの中に
大型小型の製作道具がずらりと並ぶアトリエに、制作途中の滝を昇る鯉の作品が置かれている。どこを深くどこを浅く彫れば、水しぶきが飛び散るように見えるか。限られた木の板の厚みの中で、陰影の変化によって思い描いた動きを表現する。
創作活動で大切にしている事は、「自分の内面をいかに作品に表現していくか」。身の回りにある何気ないものや、自然の中から得られるヒントを自分に取り込み、日々共に生かされている感謝の気持ちを込めて制作に当たる。そうした作品が、人の心に安らぎや感動を与える事ができればと、活動を続けている。「作品を通して人と人がつながっていく、ご縁の大切さ、不思議さを実感しています」
3人の子供の父親でもある河野さんが、家庭を大事に思う気持ちは作品の端々に表れている。妻の綾子さんが妊娠中に制作した高さ150センチの大きな卵『expecting』、2つの洋ナシがもたれあうブロンズ作品『a ‘Pear’ in love』。階段の手すりの柱に掘り込んだフクロウの作品は目元が末っ子のカレンちゃんにそっくりだ。
カナダで制作すること
ドアや柱、マントルピースに刻まれた河野さんの作品が、暮らす人や来客の気持ちを和ませると、その評判が思わぬところにまで広がっていく。バンクーバー市警察から依頼された紋章の置物の納品時には、市警察長官が河野夫妻を招いてパーティを開いてくれた。
北米で制作していて強く感じるのは、「アーティストへの寛大なリスペクトが人々の中に存在する事」。「アーティストは自由に泳ぐ方がいいものができるから」と顧客は途中で口出しすることなく、制作を任せてくれる。若手アーティストたちにとって、比較的羽ばたきやすい環境があるのだという。
「今ある環境のなかでベストを尽くす事が、自分にできる事であり、継続したい事」。温厚さの中に秘めたパッションが、つねに自分を挑戦に駆り立てている。
(取材 平野香利)
河野守行(こうの・もりゆき)さん プロフィール
奈良県育ち。1994年からカナダに。もともとはログハウスの制作が本業で、柱を飾るための彫刻がスタートだった。顧客からの手ごたえを得て、彫刻一本に。北米のギャラリー、ログハウス会社、ドア会社をはじめ、日本・ヨーロッパ諸国・南米へ、野生動物などの作品の注文制作を行っている。BC州の地方自治体、民間企業、個人に納入実績あり。
MK carving and sculpting 1-604-504-7235
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2011年9月1日 第36号 掲載