たった一人の「想い」からチャリティの輪が広がった
主催は、「Fountain of Amrita」。チャリティ活動家・富沢美和子さんが代表を務め、今年2月には五日市剛さんの講演会で募金活動を開催。そして今回は、「ありがとうをつなぐ」という趣旨で企画をスタート。はじめに決まったのが、真夏竜(まなつりゅう)さんとのジョイント。バンクーバーの日系コミュニティの人々が、被災地へ向けた募金活動などを積極的に行ってきたことを真夏さんが伝え聞き、そのお礼にと「民話の小部屋」バンクーバー公演が決定したという。次の「ありがとうの連鎖」は、NAVコーラス。「民話とともに、日本の美しい情景を、郷愁をよりいっそう感じていただこう」と出演が決まった。そして、スティーブストンの日本語学校の生徒たちも特別出演。学生ボランティアグループUNIOSの協力へと広がった。
うたと語りで「和心伝承」
長井明さんのバイオリン、アレキサンダー恵子さんのピアノによる、「あかとんぼ」の演奏で始まり、NAVコーラスによる、日本のうた。懐かしい曲から東北の被災地にちなんだ曲、「花は咲く」で、会場はすっかり、にっぽん!
そこへ、会場の子供たちの「竜じ〜い!」という声で、真夏竜さんが登場。真夏座「民話の小部屋」が始まった。おなじみ「むか〜し、むか〜し…」で始まる民話6話が語られた。日本の民話の数は、1万を超すといわれるが、真夏氏は300作品を主に語っている。写真や絵で説明することは一切なく、BGM程度の効果音と話術だけで、日本の昔が浮かび上がってくる。民話には、泣かせ、笑わせ、そして生活の知恵や倫理観をさりげなく教える話が織り込まれている。はたして、昔の、しかもバンクーバーの子供たちに通じるのかと思っていたが、子供たちは笑い、驚き、真剣に聞き入っていた。この点について真夏さんは、「現代社会は写真や映像、イラストなどの具象であまりに説明しすぎだと思う。創造力を育てるには、想像させることがもっと必要ではないだろうか」という。
最後に語られた「隠れ箕笠」は、真夏氏のオリジナルも加えられた話だが、まさしくドラマ。犬の鳴き声、狼の遠吠え、悲しくも、笑える話に感情がこもり、情景描写の細やかさに、大人もすっかり日本の懐かしい世界に引き込まれていた。話術の素晴らしさは、それもそのはず、真夏さんは、俳優歴40年、水戸黄門、大岡越前などの時代劇、そしておなじみウルトラマン・レオだったのだ。真夏座のバンクーバー公演の実現に尽力してくれたFOA代表・富沢さんの友人、工藤奈美さんが、大の“レオファン”で、「大震災の時、レオに助けに来てほしい」と思ったことがきっかけで真夏さんにつながり、実現したという。まさしく、「ありがとう」の連鎖。
こうしたチャリティ活動に賛同した磯野哲也在バンクーバー日本国総領事館の文化担当領事は、締めくくりのあいさつで「懐かしく聞かせていただいた。日本の能や歌舞伎などの伝統芸能は世界にも知られていますが、民話という素晴らしい伝統芸能はあまりなじみがないかもしれません。ぜひ、これを機会に、海外へも広めてほしいものです」と感動の様子だった。
取材 笹川守