2020年2月13日 第7号

優れた鉄道旅行を表彰する2019年度の「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」が2月5日発表され、新潟県の第三セクター鉄道、北越急行で定期列車の運転終了後にトンネルを歩くツアーが最高賞のグランプリに輝いた。準グランプリは、日本唯一の行商人専用列車となっている近畿日本鉄道の「鮮魚列車」を貸し切ったクラブツーリズムの旅行商品。ともにユニークな売りに着目し、通常ならばできない『激レア体験』を提供したことが高く評価された。

 

「鉄旅オブザイヤー」のグランプリを受賞し、賞状を受け取る北越急行の桑原信之営業企画課長(右から2人目)ら=2月5日、さいたま市の鉄道博物館

 

 鉄旅オブザイヤーは、旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、JR旅客6社や日本民営鉄道協会などが後援。東日本大震災で落ち込んだ観光を盛り上げようと11年度に始まってから毎年開催し、今回で9回目となった。旅行会社から計85件の応募があり、実行委員会による一次審査を経て、鉄道に詳しい南田裕介ホリプロマネージャー、大塚圭一郎・共同通信社福岡支社編集部次長(元ニューヨーク特派員)ら計12人と1団体の外部審査員が最終選考した。

 グランプリのツアーは、JR上越線と接続する六日町駅(新潟県南魚沼市)を午後11時40分に出発する北越急行に乗り、午前4時40分に戻るオールナイトの行程。同県十日町市にある途中の美佐島駅から隣のしんざ駅までの2・2キロにわたって赤倉トンネル内の線路上を歩いた後、ほくほく大島駅(同県上越市)まで時速5〜20キロの『超低速』で走る電車内からの探索を楽しんだ。特製ヘルメットと、地元の南魚沼産コシヒカリのおにぎりの夜食付きで、参加料金は1人9千円。

 40人の募集に対して5倍の希望者が集まって抽選となり、参加者の8割が新潟県外からで、遠くは九州や鳥取県、大阪府からも訪れた。北越急行はかつて東京と富山や金沢の間を移動するのに上越新幹線と乗り継ぐアクセス線として利用され、大半が赤字経営の三セク鉄道の中で黒字を続けてきた『優等生』だった。しかし、2015年3月に北陸新幹線が長野から金沢へ延伸すると利用者が流出したことで赤字会社に転落し、2018年度の経常的なもうけを示す経常損益が5億2200万円の赤字に陥っている。赤字削減に向けて今回のような意欲的なツアーを企画しており、大塚次長は「新たな『ナイトタイムエコノミー』の旅行商品を生み出したのが画期的です」とコメントした。

 準グランプリの商品が目玉にした鮮魚列車は、三重県の海産物を大阪方面へ運ぶ行商人を乗せて宇治山田(三重県伊勢市)から大阪上本町(大阪市)まで平日の早朝に駆けている。普段乗車できるのは伊勢志摩魚行商組合連合会の会員だけで、貸し切り運転のツアーを催行することで一般消費者に門戸を開いた試みが受け入れられた。

 JRグループと自治体が手掛ける大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」の開催地への旅行を対象にしたDC賞には、熊本DCを開催中の昨年8月23〜26日にJR西日本の欧風客車「サロンカーなにわ」を貸し切って熊本市を訪れた日本旅行の商品を選出。往路は大阪駅から熊本駅、帰路は博多駅(福岡市)から大阪駅までそれぞれ夜行運転した。

 一方、審査員特別賞に選ばれたのは、福島県・会津地方を貸し切りバスで訪れて11年7月の福島・新潟豪雨で一部区間が不通となっているJR東日本只見線を訪れるなどした読売旅行の商品。初めての受賞となる旅行会社を対象としたルーキー賞には、東日本大震災で被災した岩手県の三陸鉄道全線に乗り、貨物専用鉄道の岩手開発鉄道を訪れてディーゼル機関車や貨車を見学する朝日旅行のツアーが輝いた。

 一般消費者から企画を募る部門には50件の応募があり、ベストアマチュア賞には群馬県の名物や歴史、出身人物を札にした「上毛かるた」を学びながら、世界文化遺産の富岡製糸場(富岡市)といった名所を巡る千葉県船橋市の会社員、前芝雄太さん(35歳)の企画を選んだ。

(記事提供 共同通信社福岡支社編集部次長・大塚 圭一郎さん)

 

グランプリに選ばれたツアーが歩いて通った北越急行の赤倉トンネル=新潟県(北越急行提供)

 

グランプリに選ばれたツアーが通った北越急行の鍋立山トンネル=新潟県(北越急行提供)

 

「熊本デスティネーションキャンペーン(DC)」を記念して日本旅行が走らせた、JR西日本の欧風客車「サロンカーなにわ」をけん引した列車=2019年8月25日午後、福岡市(大塚圭一郎撮影)

 

「鉄旅オブザイヤー」のベストアマチュア賞を受け、賞状を見せる前芝雄太さん=2月5日、さいたま市の鉄道博物館

 

「鉄旅オブザイヤー」審査員の大塚圭一郎(おおつか・ けいいちろう) ・共同通信社福岡支社編集部次長

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。