2020年1月1日 第1号

羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事

 

ー赴任されてから1年が過ぎましたが、当初とバンクーバーの印象は変わりましたか。

 「天気や気候が素晴らしくて街もきれいというところと、人がみな温かいというところが着任当初の印象でしたが、1年経ってその印象は全く変わっていません。むしろ、1年間を通していろいろな季節のバンクーバーを知り、気候の良さや街の美しさをさらに実感しましたし、大勢の人に会うことによって本当に温かい人ばかりだと印象を深くしました」

ー2019年を振り返って印象的だったことは何ですか。

 「着任直後は、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府の閣僚との関係を構築するためビクトリアに何度か訪れ、ホーガン州首相はじめ9人の州政府の大臣に会っています。またバンクーバー、リッチモンド、バーナビー、コキットラム、ノースバンクーバーといった各自治体の市長にご挨拶したり、公邸にお招きしたりしています。(メトロバンクーバー以外の地域としては)2月にホワイトホースに行きました。最近では、カムループスやその近くのアシュクラフトという村や、ホープ地区を訪れました。(バンクーバー島では)ビクトリア市長にお会いしたり、レイクカウチンやシドニーという町を訪れたりしました。

 令和という時代が5月1日から始まりましたし、10月22日には即位の礼が行われ、新しい時代の始 まりについて折に触れてお伝えしてきました。令和が始まった際には総領事館で記帳を受けつけました。BC州政府からはラルストン雇用・貿易・技術大臣がお見えになりましたし、他国の総領事の方々や一般の方からたくさんのお祝いの記帳をいただき、東京へ送りました。また、日本とカナダの友好90周年という機会に、高円宮妃殿下がカナダ東部からバンクーバーまでご訪問され、各地でいろいろな行事に参加されました。バンクーバーでは日系センター(日系文化センター・博物館)の日系祭りに参加されたり、日系人の皆さんと会食されたり、ビクトリアへもいらっしゃいました。新しい時代が始まるということで、皇室から妃殿下をお迎えできたことも、交流という面で非常に良いことだと思いました。

 1年間を振り返って感じたのは、自治体同士の交流が多いということです。昨年は盛岡市の市長が姉妹都市のビクトリア市を訪れたり、交流の事業も多数ありました。軽井沢町長がウィスラーを訪れ、交流記念の行事に参加されました。また、アシュクラフトは北海道美深町、カムループスは京都府宇治市、ホープは静岡県伊豆市、レイクカウチンは北海道伊達市、シドニーは岡山県新見市とそれぞれ姉妹都市関係を結んでいます。高校生がお互いの市に1年おきに訪れるなど、若い人たちの交流も盛んです。また、カムループスには日系文化センターがあるんですが、何年か前に火事で焼けてしまった時には、宇治市が再建費用の一部を寄付されたと聞いています。このようにいろいろなところで、交流が盛んに行われていることに気づかされました。

 ホープ郊外にタシメという、日系人が第2次世界大戦中に強制収容されていたキャンプの跡地があります。ここで一部の建物を保存して博物館をつくっている方がいらっしゃいます。カナダの方が日系人の歴史を保存したいと活動されていることに感銘を受けました。また、アシュクラフトは町中にモザイクの壁画が飾られているんですが、(10月初めに)新しい壁画のオープニングセレモニーに出席しました。日系人との和解がテーマとなった壁画を、村に住むアーティストが中心となってつくられたそうです。地元の皆さんが日系の歴史と関わっていこうとする気持ちがうれしいですね。その他にも、ビクトリアには日系人の慰霊碑があるんですが、地元の日系人の方たちとカナダの方たちが慰霊碑をつくったり、古い日系人の墓地が分散しているのを集められたりといったことをされているのも、非常に印象深かったです。そういった歴史を保存することを、日系の方以外でも参画していただけることはとてもいいことだと思います。そして、こうしたカナダの方たちの善意に対して、我々でもご支援できることがあればという思いを新たにしました」

ー総領事としてまたは総領事館として、的を絞っていきたいとお考えの分野はありますか。

 「自分が総領事としてこういうものを残した、というレガシーには私はあまり関心がないんですね。やはり地道に地元との交流をサポートしていくことが大事だと思っています。さきほど申し上げた姉妹都市関係とか、管轄内でもまだ訪れていないところがたくさんありますので、これからいろいろな市町村をうかがって、日本との関係について市長さんなどと意見交換していきたいと思っています。何か機会があれば我々が出席させていただくといったご支援をしていくなどですね。他にも、日本から訪れる学生さんたちとお会いするとか、行事などを公邸で開催したりといった形で支援したいです。こういったことを着実にしていくことが大事だと思っています。

 日本の文化をもっと知ってもらう努力をしていくことも大切だと考えます。総領事館では学校を訪問して日本文化を紹介するスクールビジットをおこなっています。箏、踊り、着付け、書道、華道、和食といった日本の文化に関わっておられる方が講師やボランティアとして参加して、総領事館の職員と一緒に学校を訪れています。この活動を広げていくことで、日本の文化や日本について関心を深めてもらいたいと思います。

 スクールビジットに関して館員から、『子供たちだけでなく先生方からも好評をいただいておりますし、また来てくださいという声をよくいただくのはうれしいです。和食など一見して何か分からなかったりすることもあります。低学年向けにはクイズ形式にしてみたりと、年齢に合わせて形を変えて紹介しています。毎回アンケートをお願いしてるのですが、学校によっては生徒一人ひとりから感想を書いてもらったり、レターサイズいっぱいに書いてくれる子も多く、やっていて良かったなと思います』といった報告を受けてます。こうしたスクールビジットなど総領事館の活動はSNSで紹介しています。今後も、フェイスブックやツイッターといったSNSでいろいろと発信していきたいと考えています。

 また、総領事館の仕事としてはビジネスの支援もあります。例えば日本の製品やサービスなどをカナダに紹介したいと思っても、国や州の規制があってスムーズにできないといった声があれば、州政府にその要望を届けて改訂をお願いするといった働きかけもしていきます」

ー2020年の抱負をお聞かせください。

 「これまでに申し上げたようなことを着実にやっていくことはもちろんですが、今年は東京オリンピックの年なので、それについての発信もできればと思っています。各所でスピーチやご挨拶をする機会がありますので、そこでオリンピックの紹介をするように心がけるといったことです。昨年は日本でラグビーのワールドカップが行われ、大成功だったといえるでしょう。大勢の方が見に行かれたし、それぞれのチームをお迎えするときにその国の国歌を子供たちが歌ったりといった、日本流のおもてなしが大成功したのではないでしょうか。オリンピックもきっと盛り上がると思いますね。

 日本で生まれて新移民として移住された日本人の皆さんと、こちらで生まれ育っている日系人の皆さんというのは文化的背景、状況や経験してきたこと、コミュニケーションの面でなど、いろいろな違いがあると思います。日本から移住されてきた方たちにも、源流を同じくする日本の文化や歴史を伝えていくという観点で、日系人の歴史に関心がある人たちはいると思うんです。そういう人たちを結びつけるような、交流の場を設けるといったこともやっていけたらと思っています」

(取材 大島多紀子)

 

2019年8月31日、日系祭り開会式であいさつをする羽鳥隆総領事。今回の日系祭りにはカナダ各地を訪問されていた高円宮妃久子さまも臨席された (写真提供 Manto Artworks)

 

2019年10月5日、アシュクラフト村日系カナダ人関連モザイク除幕式に出席した羽鳥隆総領事 (写真提供 在バンクーバー日本国総領事館)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。