2019年10月24日 第43号
今年のバンクーバー国際映画祭のパノラマ部門に招待されたドーリス・デリエ監督の「Cherry Blossoms & Demons」。監督はドイツより来加し、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市内にあるPlayhouse劇場でのレッドカーペット、上映とQ&Aに参加した。10月5日、宿泊先のザ・サットン・プレイス・ホテルで帰国する直前のデリエ監督に話を聞いた。
インタビュー時の監督
監督と日本
ベルリン国際映画祭の常連で、日本でもおなじみのドーリス・デリエ監督は、遠くに座っていても目立ち、セレブ独特の雰囲気を感じさせる。そして明確に話をしてくれる人だ。ドイツの新聞社で映画の評論コラムを書いた後、ベストセラーの本を数冊出版し、作家、映画監督、オペラ監督としても有名。国内では映画と文学両方で数々の受賞歴があり、ヨーロッパ内でもカンヌ国際映画祭の審査員を務めるなど多忙。また大学教授で国際ペンクラブのメンバーでもある。
そんな多才なデリエ監督は1985年、初めて日本を訪れた。デビュー作『Mitten ins Herz心の中で』で東京国際映画祭に招待されて以来、すぐ日本びいきになったという。その後娘さんを連れて、教育ツアーとして日本の大学を巡ったりもした。日本にはこれまで35回も行き、『HANAMI』『フクシマ・モナムール』など4本の映画を撮影している。
特に日本の田舎が大好きという監督。「言葉は全くわからないけれど、なぜか日本は私にとって心地が良いの」とデリエ監督は話す。常に故郷にいるようなアットホーム的な感じがするそうだ。
悩むなら東へ行け
小津安二郎監督のファンだということから、映像技術も含めて小津映画と比較されるが、それは全く違うと監督は訂正する。例えばこの映画撮影のために監督自身、日本美術を代表する広重と北斎という2人の浮世絵師について勉強したそうだ。そして撮影のハンノ・レンツHanno Lentz監督と相談して、北斎の色づかい、淡いブルー、グリーン、レッドなどを主に使って独自の考えで浮世絵的なドイツを描いたそうだ。
監督の前作『フクシマ・モナムール』と今回の映画はそれぞれドイツの若者が悩んで日本を訪れるというロードムービーになっている。それにはドイツやヨーロッパに古くから伝えられている言い伝えがあるからと監督は教えてくれた。それは「悩みごとがあれば東へ行け。そして自分を見つけて帰ってこい」というものだ。日本ではそういう言い伝えこそないが、やはり若者が何かを求めて、自己発見の旅をするという点は共通しているかもしれない。
映画に何度か『ノイシュバンシュタイン城』がシーンに登場することを聞くと、「ドイツ人が日本と聞くとまず『富士山』を想像するの。もちろん『桜』もだけど」と笑い、「だから今回はその逆、日本人が考える典型的なドイツを入れてみました」と続けた。そして往年の女優樹木希林さんについて、「とても素敵な女性。素晴らしい女優さんでした」と語ってくれた。
現在の日本について
「日本は大好きだけれど」と監督はふと静かに前置きして、「でも近年は少し住みにくくなってきているような気がする。特に女性として」と語った。例えば自分は映画監督だが、格式ある公の場ではよく男性カメラマンや撮影監督のアシスタントとして紹介されることが多い。なぜトップが女性ではだめなのかと何度か思ったそうだ。でもそれだけではない。日本では歴史、教育、外国人などいろいろ向き合わなければいけないことに常に心を閉ざしている人が多いと指摘する。「どうでもいいことだから」と避けないで、なぜ良いことも悪いことももっと素直に認めて周りと語り合わないのかわからないと話した。特に日本男性にもっとオープンに変わってほしいと願う。そうすれば日本は世界で最も住みやすい国になれるとメッセージしてくれた。
今回はドイツから到着して時差ぼけの中、多くのインタビューに応えてとんぼ返りというきつい旅だった。これからについて聞くと、自分はまだまだ日本を撮るつもりだという答えが返って来た。来年やはり桜のある頃また日本へ行って撮影を開始するそうだ。「もしかしたらドキュメンタリーに挑戦するかもしれない」と監督はどこか話したいけど話せないという感じで、「でも日本映画だから楽しみにしていてね」と締めくくった。真っ赤なスーツが良く似合うデリエ監督の次作に大いに期待できそうだ。
(取材・写真 ジェナ・パーク)
レッドカーペットに登場したデリエ監督
Cherry Blossoms and Demons 2019 ©VIFF