2019年10月24日 第43号
日本で開催されているラグビーワールドカップ2019。自国開催で盛り上がる日本代表は8強入りという日本ラグビー史上初の快挙を成し遂げた。日本各地でファンが日本代表の一挙手一投足に注目し、勝ち星をあげるたびに熱狂した。気温30度を超えた秋の日本列島はラグビーファンの情熱でさらに熱くなった。
熱狂したのは日本人ファンだけではなかった。世界中から多くのラグビーファンが押し寄せ、各地で、各会場で、ラグビーに熱狂し、日本に魅了されていた。
もちろんカナダからも、カナダ代表を応援に多くのカナダ人ラグビーファンが日本を訪れていた。 カナダ代表は予定されていた4試合中1試合が台風の影響で中止となったが、今ある力を出し切り大会を終えた。
日本代表を8強に導いたマイケル主将。9月28日アイルランド戦、静岡
東京スタジアム開幕戦で一気に盛り上がる
9月20日東京快晴。開幕戦が行われる東京スタジアム周辺は異常な盛り上がりだった。6時半からの開会式スタートで2時には最寄り駅から会場までファンで埋め尽くされていた。彼岸というのに残暑厳しく昼間は約30度の真夏日。しかし会場付近の熱気はすでに沸点近くまで上がっていた。
この日は日本対ロシアの一戦。しかし開幕式もあるためか、各国代表のユニフォームを着たファンを大勢見かけた。いよいよ始まる感が会場をオーラのように包んでいた。
開会式は、日本の歴史、赤と白の連獅子の舞踏、プロジェクションマッピング、参加国チーム紹介など盛り沢山で、秋篠宮皇嗣殿下の開会宣言とともに大会の開幕を告げた。
そして迎えた日本対ロシアの一戦。前半は苦戦した日本だったが後半スタミナが切れたロシアを突き放し、開幕戦を白星で飾った。
試合後記者会見に臨んだリーチ・マイケル主将は厳しい表情を崩さず、格下ロシアに前半から苦戦した理由に緊張と風をあげた。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、選手たちはよく頑張ったと労った。自国開催の開幕戦。緊張しないと言ったらうそになる。前半硬さはあったが結果的に勝利したことで、第2戦以降に弾みがついた。
その後、日本代表は強敵とされたアイルランドにも勝利すると全戦全勝でグループAを1位通過。日本中が沸点に達した。
福岡は完全にカナダ代表のホームだった
カナダ代表は初戦を福岡県博多の森球技場で迎えた。対戦相手はイタリア。カナダにとってはリベンジを狙う一戦だった。
イタリアとは前回イングランド大会で対戦していた。逆転に次ぐ逆転の展開、しかし最後はネイサン・ヒラヤマのペナルティゴールも勝利には届かず18―23の接戦を落として涙をのんでいる。
しかし今大会のイタリアは強かった。カナダは何度もトライ寸前までいったが、肝心のところでミスが出て得点することができない。ようやくトライを決めたのは69分。アンドリュー・コーが右隅にトライを決めると選手たちは喜びを爆発させ、カナダの応援一色だった会場に大歓声が響いた。その直前に決まったと思われたトライが無効となったため、初トライにしてこの試合唯一となったトライに会場中が沸き立った。
結局カナダは7―48で大敗。しかし福岡のファンは熱かった。試合中には何度も「カナダ、カナダ」の大合唱が博多の森に響いた。会場を埋め尽くした16,984人の多くがメープルリーフを振りながらカナダ代表に声援を送った。
カナダ代表は試合が終わると会場を一周し、詰めかけたカナダファン、ラグビーファンにあいさつし、サインなどに応じていた。
試合後の会見でタイラー・アードロン主将は、結果には満足していないが選手たちは自分たちが現在できる限りのことをやって戦っていると胸を張った。「まるでホームのようだった」と記者に聞かれると「うれしかったね」と笑った。コミュニティと絆を深める機会ができて選手もいい時間を過ごした、それで応援にも来てもらって「みんなクールだね」と感謝した。
カナダ代表は決してベストの状態とは言えない状況だ。今回のW杯には敗者復活戦で勝ち上がり出場を決めた。カナダはラグビーが五輪競技となってから15人制と7人制を完全に分離。前回大会には出場したヒラヤマなどは7人制専属となり、15人制は現在チーム再編過程にある。ラグビー人口が決して多くないカナダで完全分離は世界大会では不利になるが、7人制に力を入れるカナダラグビー協会が下した決断だった。
そんな中で迎えたW杯。今回は優勝候補のニュージーランドや南アフリカがいるプールBで厳しい戦いを強いられた。釜石での最終戦は台風の影響で試合が中止になった。唯一勝てる可能性のある相手だっただけに残念だったに違いない。しかし選手たちは台風で被害にあった釜石の街で清掃ボランティアを買って出た。その様子がSNSに投稿され日本中から「カナダありがとう」の感謝と称賛の声が上がっていた。
山口県長門市からも応援団が福岡に
試合終了と同時にカナダ代表選手たちが駆け付けたのは、メープルリーフを振って応援する子供たちの前だった。整列して一礼。そして大きく手を振った。子供たちは山口県長門市から駆け付けた小学生だった。
カナダ代表は9月、同市でキャンプを張った。キャンプ中には地元の人と触れ合う機会をつくり、小学校も訪問。町の人々との交流を楽しんだ。
イタリア戦後、ベテラン選手DTHファン・デル・メルヴァは、「感謝の気持ちを伝えたかった」と語った。長門は自身13年の選手生活の中で最も歓迎された町だったと振り返った。「とても充実した10日間だった。市長をはじめ、みなさんにすごくよくしてもらって、選手全員感謝しています」と語った。
会場には長門市からバスで大応援団も駆け付け大声援を送った。その一人吉田浩二さんは長門市で公開練習を3回見学したという。ボリス・スタンコビッチコーチとはスクラムの話をしたり、市内を案内したり。カナダを訪れた縁もあり応援には力が入る。「得点してほしいですね」とハーフタイムに語った願いは後半にかなえられた。
カナダラグビー代表、次は東京五輪で
ラグビーカナダは18日、ファン・デル・メルヴァとベノー・ピフェロの国際大会からの引退を発表した。これから次のW杯を目指して15人制の再建に入る。
一方でカナダ代表が日本で活躍する機会は来年もある。東京五輪だ。カナダ代表は男女とも出場を決めた。男子代表のポイントゲッターは日系3世ネイサン・ヒラヤマ。男子は初出場、女子は前回リオデジャネイロ大会で銅メダルと今回もメダルの期待大。
来年も日本でラグビーカナダ代表が活躍する姿がきっと見られる。
(取材 三島直美 / 写真 斉藤光一)
強敵アイルランドに襲い掛かる日本代表松島。9月28日アイルランド戦、静岡
チームの最多トライ記録を持つファン・デル・メルヴァ。今大会で国際大会から引退する。9月26日イタリア戦、福岡
アードロン主将、トライを決めるも幻となった。9月26日イタリア戦、福岡
なぜかいつも派手なカナダファン。試合前の会場で。9月26日イタリア戦、福岡
長門市から当日バスで駆け付けた応援団。9月26日イタリア戦、福岡(撮影 三島直美)
長門から応援に駆け付けた子供たちと握手するキース。9月26日イタリア戦、福岡
観客席に向かって一礼するカナダ代表選手。9月26日イタリア戦、福岡