前半は息詰まる投手戦。藤田、リケッツの両先発投手は4回終了までゼロ行進を続けた。試合が動いたのは5回表。2死3塁で河野が適時打を放ち日本先制。この回は山田の2塁適時打などで一挙4得点。しかし、6回裏アメリカが3ランを含む4得点で同点とし、試合は延長戦に入った。
8回表、日本は2死3塁から8番鈴木の3塁ベースに当たる鋭い打球で勝ち越し。さらに満塁から河野の適時打で2点追加。この回大量5得点でアメリカを突き放した。その裏、アメリカは2ランで2点を返すも及ばず、日本が逃げ切った。

河野外野手がMVP、決勝は藤野投手が完投
ジェットコースターのような展開となった延長の決勝戦は、安打の花が咲き乱れる乱打戦を制した日本が勝ち逃げた。この日、先制点を叩き出した1番河野外野手が大当たり。5打数4安打3打点で最優秀選手にも輝いた。小さな体いっぱいに詰められたエネルギーが弾け散るような彼女のはつらつプレーがチームを元気づける、そんな印象だ。ライトの守備についていてもひときわ大きな声が聞こえてくる。8回表の場面は「満塁にみんながしてくれて、監督も気持ちでいけと言ってくれたので、それが良かったと思います」と振り返った。1番打者としての基本に徹してプレーしたことが今回の結果につながったとも。世界一の1番バッターは大胆なプレーとは裏腹に控えめなコメントだった。
決勝を完投で優勝した藤田倭投手。「考えずにとにかく全力で。がむしゃらに一生懸命やりました」。完投は言われていなかったが、自分では最後まで投げるつもりでいたという。「6回にホームランを打たれた時は焦ったんですけど」と苦笑い、「最後まで投げさせてくれた監督にすごい良い経験をさせてもらったと思います」と語った。決勝は8回10安打6失点、最優秀投手にも選ばれた。世界選手権では「全力で若さあふれる投球で頑張りたいと思います」と世界に向けて羽ばたき始めた上野2世は弾けるような笑顔を見せた。
宇津木監督は、初舞台の国際大会で完投優勝したことは、「彼女にとって最高の経験をしたんじゃないかなと思います」と口元を緩めた。

「この大会は大事にしていきたい」上野投手
「今回の大会自体は世界選手権の調整だと思っている」と上野投手も監督も語っているように、チームの目標は世界選手権での優勝にある。監督は、決勝ではお互いどこまで自分たちの力を見せるのかという探り合いの状態だったと語った。しかし、世界選手権でアメリカの勢いを止めるのはやっぱりこの日の決勝で勝って、相手にプレッシャーをかけること。「今日はプレッシャーをかけていこう」と選手たちにも言っていたし、そういう意味でこの試合で勝てたのは良かったと振り返った。
上野投手が決勝に投げなかったのはこの探り合いの意味が大きい。今大会、上野投手は6日のプエルトリコ戦で3回、8日のベネズエラ戦で5回を投げ1安打8奪三振無失点だった。プレーオフ以降は全く投げなかったがその人気ぶりは圧倒的。試合後は地元ファンに囲まれサイン攻めにあっていた。
「毎年ソフトボールシティで試合をやらせてもらうこと、たくさんの日本人の方が応援に来てくれることはすごく自分たちにとって励みになります」と上野投手。ソフトボールが五輪種目からなくなって世界の中でソフトボールがどのくらいの認知度があるのか不安な面もあったが、「相変わらずたくさんのファンが応援に来てくれるこの大会は大事にしていきたいと思うし、末永く応援よろしくお願いしますという思いです」と語った。ホワイトホースはちょっと遠いけど、たくさんの人に応援に来てもらいたいと笑った。

大会結果 優勝 日本 2位 アメリカ 3位 オーストラリア 4位 カナダ

オリンピックイヤーに思う
北京大会、2日で400球を超える熱投で日本中を感動の渦に巻き込んだ上野投手とそれを支えた日本代表チーム。あの悲願の金メダルから4年、今年のロンドンに彼女たちの歓喜の声が響くことはない。
上野投手は「改めてオリンピック種目から外れたんだなというのを実感しますね」と意外なほど冷静に語った。宇津木監督は「ほんとに悔しい」、そう言葉を絞り出した。
宇津木妙子元監督が苦労して作り上げた常勝チーム。常に世界一を狙えるレベルの高いチームに仕上がったのに、それを試せる最高の舞台がなくなったことに悔しい思いが込み上げる。エース上野投手は今月30歳となる。技術的にも、精神的にも、体力的にも、おそらく最高となる今年、それを披露する舞台が用意されていないことは、彼女自身にとってだけでなく、ファンにとっても「寂しい」の一言に尽きる。
自分たちでは何もできないことに「歯がゆい思いもするが」と監督。それでもソフトボールがなくなるわけではないと前を向く。いつか五輪復帰するその日まで「若い人や子供たちにソフトボールの良さを教えていきたい」と語った。上野投手は今自分たちにできるのは「結果を出すということだけ」。多くのファンを魅了することでソフトボールを広めていく。それが自分の使命。そんな思いが込められている言葉に聞こえた。

 

(取材 三島直美)

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