2019年4月25日 第17号

お客さんからカフェへ、カフェからお客さんへ。そんな双方向の企画を行っているカフェがある。バンクーバーのまるりるカフェは、店内で開催する写真コンテストで第2回「まるりるベストフォト」を3月に発表し、4月9日、優勝者を特製ディナーに招待した。選ばれたのは写真家・斉藤光一さんの作品。朝日を浴びるスタンレーパークでの一枚だ。

 

Marulilu Best photoに選ばれた写真家・斉藤光一さんの作品

 

インスタグラムのフォロワーへの思いから

 同カフェは、2017年の暮れから店内とインスタグラム上でカナダで撮影した写真を募集している。応募方法は、写真にハッシュタグ「#maruliluphotochallenge」を付けてインスタグラムに投稿する形式。そうして集まった作品の中から同カフェが数点を選出し、作品をプリントして店内に掲示している。また一番のお気に入り作品となった写真の投稿者にはカフェの特製料理を振る舞っている。 これはどこから生まれたアイディアなのか。まるりるカフェオーナーシェフ森井園子さんに話を聞いた。

ー本企画の動機は?

 「うちのお店のインスタグラムを始めてみたら、フォローしてくださる人たちの写真の素晴らしいことがわかったんです。それでフォローしてくださっている人たちに、何か喜んでもらえることができればと思ってこの企画を始めました」

ー今回、斉藤さんのスタンレーパークでの写真を選んだ理由は?

 「朝日に染まる空と落ち葉の赤はカナダを象徴する色ですよね。そして構図も素晴らしくて、さすがプロの方は違うと思いました」

 一方、受賞した斉藤さんは、プロの写真家である自分がここで賞を受けてもいいものかと迷ったが、オーナーから「どうしてもぜひ」とプッシュを受けてありがたく受け取り、特製ディナーをご馳走になったという。

タイミングに後押しされる思いで

 挙式からスポーツ撮影まで幅広いジャンルを手掛ける斉藤さんだが、自分発の作品としてバンクーバーの風景撮影への熱が年々高まっている。その自信作を集めた個展「穏やかに過ぎゆく時間の中での追憶」を今年、郷里の長野県上田市の市立美術館サントミューゼで開く。開催期間は4月26日から5月6日、平成から令和の時代をまたいでの開催となる。たくさんの人や風景と出会い、その対象を見つめてきた経験の集大成ともいえる個展を前に、まるりるカフェでの受賞とご馳走は、日本への旅立ちのはなむけとなったようだ。この日、斉藤さんは「このようなおいしい特製ディナーを再びいただきたく、それイコール2連覇を目指し、バンクーバーでより素敵な写真を撮るよう日々がんばります」と茶目っ気混じりに語った。

10周年につながるもの

 話は戻り、まるりるカフェの写真への取り組みは、インターネットとリアルな場を使って顧客とつながる現代らしい企画と言えるだろう。その動機は「顧客の喜ぶこと」にあり、その思いは日頃常連客と対話して、いつも残す食材があれば、違うものとかえる提案をするといった気配りにも現れている。

 店のテーマは「大正時代の洋食屋さん」。大正は、オーナー園子さんをかわいがってくれた祖父の生まれた時代であり、大好きな少女漫画『はいからさんが通る』のモチーフとなった時代でもある。生き残りの難しいレストランビジネスだが、2019年12月に10周年を迎えられるのは、大正時代のようなぬくもりのある手料理と、現代の観点を併せ持った力によるのかもしれない。

(取材 平野香利)

 

入選プレゼントのペアご招待の特製ディナーを娘さんと一緒に。(写真左奥から)共同オーナーシェフの菊地克正さん、森井園子さん夫妻、(右奥から)斉藤光一さんと娘の岬さん

 

ビーフシチューをメインにして、色とりどりな食材でおもてなし

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。