2019年4月18日 第16号
満開の桜を背に写真を撮る人があふれるブリティッシュ・コロンビア州リッチモンド市ギャリー・ポイント・パーク。ここで4月7日第3回リッチモンド桜祭りが開催された。(メディアスポンサー・バンクーバー新報)
20年前にはなかった、桜のある風景を楽しむ人たち
日系一世の歴史の証を継承
「ハッ! ハッ!」という威勢のいい声と力強い太鼓の音に合わせて踊るバンクーバー沖縄太鼓の一団。その音に引き寄せられて観衆がどんどん増える。200人以上が収容できるオープンテントの外にも人だかりができた。青空と満開の桜と子供が迷子になりそうなほど多くの来場者。普段は風の強いこの公園も、この日は穏やかで、これ以上ない絶好の祭り日和となった。
リッチモンド市の南西、海に面した同公園には、メトロバンクーバーのどの場所よりも多くの桜が集まっている。その数255本。すっかり地域の風物詩となったこの桜を12年にわたって植えたのがBC州和歌山県人会だ。植樹の動機は日系一世への思いにある。和歌山県からカナダへと渡り、漁師として苦労しながら異国での生活を切り開き、第二次世界大戦中、苦難を強いられながら生きていった日系一世たち。彼らの功績を称え、後世にその証を残していきたいという強い思いが、同公園内にある日本庭園(工野庭園)の造園同様、桜を植える動機となった。
そして今回3回目を迎えたリッチモンド桜祭りも、同じ思いを継承し、同県人会の有志が始めたものである。有志の尽力により、リッチモンド市から全面的に協力が得られ、規模を拡大して開催されるに至った。
地域のイベントとして
開会式ではリッチモンドのマルコム・ブロディ市長が挨拶の中で、和歌山市との姉妹都市としての絆に言及しながら、桜の植樹で市の景観を美しくしたBC州和歌山県人会、祭りに大きく貢献した有志たちを力強く称えた。続いて羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事が日本の花見文化を紹介しながら、自身の花見経験に触れ、「今回が人生の中で最高の花見の機会」と祭りの開催を祝った。最後に挨拶に立った桜祭り実行委員の田中ジムさんが、「これは日系人のお祭りではなく、市の祭り」と祭りの位置づけを強調。そして祭りのパフォーマーとの連絡役を一手に引き受けた平野千代子さんと裏方で奔走した平野政己さんを紹介するとともに、122人に及ぶ出演とイベント実行役の人たち、そして来場者への感謝の言葉を述べた。また今後の希望として「花見には付き物の日本酒を、ゆくゆくはここで飲める場とできるように市長に相談していきたい」と語ると、ブロディ市長が驚いた表情を見せた。さらに田中さんがスピーチで紹介したのは祭りのテーマ。昨年は多国籍の民族のハーモニーとしての「和」だった。そして今年は英語でスピリットと添え書きした「心」である。その心は祭りの中でどのように表現されていたのか。
「心」を根付かせる
子供向け催しのテントの前には、『ちびちゃん』と書かれたのぼりが立てられていた。「子どもたちへのリスペクトを表現したかったんです」と平野千代子さんは語る。その言葉を裏付けるように、お絵描きや折り紙のブース、そして紙芝居の開催など、祭り会場には子供の楽しめる空間が多く、親子連れで賑わっていた。
日本の心を反映した文化紹介には、居合道や茶道、着付け、盆栽のデモンストレーションなどがあった。そして何より丁寧に思いやりを込めて来場者と接していた多くのボランティアたち。その姿が「心」を伝えていた。
「日系人の証を伝えていきたい」「『心』が根付くように、その基礎をしっかりと固めたい」と願い、力を振り絞って迎えた3回目の桜祭り。その有志と多くの同志たちの思いに255本の桜が見事な満開でしっかりと応えていた。
(取材 平野香利)
開会式に集まった羽鳥総領事夫妻とリッチモンド市の議員たち
羽鳥総領事が花見文化を紹介
BC州和歌山県人会を称えるリッチモンドの マルコム・ブロディ市長
会場に熱気をもたらしたバンクーバー沖縄太鼓
折り紙を喜ぶアレクサンダー君
お絵描きをするフランス君(左)とブライル君(右) の兄弟
民謡クラブの歌と辰巳会の踊りのコラボレーション
裏千家の茶道の紹介も関心を集めた
着物を着せてもらうナタリーちゃん