すみずみに気の行き渡った踊り、芸を引き立てる演出

『三番叟(さんばそう)』の踊りで公演は幕開け。この祝いの曲は1977年の日系百年祭および同年のクイーンエリザベス2世在位25周年記念行事で千代子さんが披露した思い出の曲だ。続く『華の宴』では白地の着物でしっとりとした舞を披露。「(三人の)息がぴったり」と客席からため息がもれた。『名槍日本号』では6人の踊り手が槍と扇子を手に勇壮な舞いを。この槍や舞台上の桜の木など、大道具小道具はすべて千代子さんの夫、平野政巳さんの手によるもの。曲に合わせた数々の着物や帯の購入費用は、地域のファンドレージングで賄ってきた。圧巻は千代子さんの『槍さび』。日本の心を一分の隙もなく舞い上げる姿が満場を魅了した。

家族や仲間、コミュニティの和に支えられて

千代子さんは日系三世としてスティーブストンに生まれたが、子供時代に数年暮らした和歌山県で日本舞踊と出会った。70年に名取・辰巳芳喜代となり、指導を開始。踊りの中にある日本の情緒をカナダ人の生徒たちに教えるため、日々工夫を重ねてきた。「先生はとても丁寧に指導してくださいます。おかげで30年間楽しく稽古を続けて来られました」と生徒の浦田純子さん。千代子さんの娘の珠美さんは「両親を誇りに思う。踊りを通して日本文化をより知ることができました」と語る。「ここまで皆が踊りを上達できるよう続けてこられたのは親御さんたち、家族、地域の皆さんの支援のおかげ。その恩返しの気持ちを第一に、この度の発表会は一般向けとはせず、食事会も合わせ、生徒さんの家族や友人がゆっくり親睦を図れるようにしました」(千代子さん)。その思いの通り、宴は和気あいあいと楽しい交流の場となり、笑顔があふれていた。


(取材 平野香利)

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