2018年11月22日 第47号
11月17日、恒例の「佐藤派糸東流空手道国際連合」の第19回『佐藤カップ』が、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市のBCIT Student Athleticで開催された。今回は、カナダをはじめアメリカ、インド、日本、ネパール、バヌアツから総勢約400人が参加した。年々、その規模が拡大している国際大会だ。略称では、『佐藤派』と呼ばれ、39カ国に及ぶ国々に支部がある。代表の佐藤義輝さんは、毎年、3〜4カ国へ直接指導に出かけ、技術的なこと以上に空手道の本質的な精神性を指導しているという。訪問する国々は、それぞれ政治、思想、文化背景も異なり、価値観も違う。そんななかで、日本文化の象徴ともいえる礼儀作法や、相手を思いやる誠実さが素直に受け入れられている。それは、この佐藤カップでの大会会場の随所でも見られるシーンだ。なかでも初心者の子どもたちの立ち居振る舞いはぎこちないが、愛らしく心温まるものだ。そして、未来を予感させる。
6面のリングを使って競技が行われた
凄まじい気合と気迫の模範演技に釘付けの 空手キッズ
佐藤代表の模範演技は、日本刀を持った相手が切り込んで来るところを払いのけ、素手で相手の急所を打ち(寸止め)、押さえ込む…その一連の動きは、一瞬だが、凄まじい気合と気迫に息を呑む。まばたきする間もなく釘付けだ。
模範演技には、技術指導ばかりではなく、相手との信頼関係の大切さを教える一面もある。一歩間違えれば、大ケガをしかねないのだから、呼吸をあわせ、間合いを取る…手順以上に信頼関係がなければできないことだという。日頃の練習でも、一つ一つの形や手順を繰り返して汗を流していくその先に、ある到達点があるという。そこには、相手を傷つけたり倒したりする闘争の次元ではない、信頼し合える境地が芽生える。肌の色や思想が違う相手であっても、この境地をわかりあえれば、過去の憎しみも氷解するのではないだろうか。「空手は、戦争や紛争の火種さえ消し去るのではないか」とは、世界各地に出かけて行って、まさに肌身に感じている佐藤代表ならではの言葉だ。
沖縄の古武道には「空手」道と「武器を使用する」武道がある
武器を使用する琉球古武道を今に引き継ぐ道場の「哲心館」による模範演技が行われた。そこで使用された武器といっても、琉球(沖縄)地方の暮らしの中の生活用品から生まれたものだ。棒、船の櫓(ろ)、鎌などの身の回りのもの。武器として作られたものといえば、釵(さい)、ヌンチャクなどだが、相手を殺傷する武器というより護身用といったほうがピッタリする。これらを使って啓心館道場の面々が模範演技を行った。迫力満点。棒の一本といえども、やはり武器に代わる。空手道とともに継承されている沖縄の古武道である。
最近、子どもたちの入門が増えている空手道
どこででも深刻な問題となっている「イジメの問題」。現代社会を象徴するように陰湿化していて、歯止めがかからない。力での対処だけでは撲滅できない。イジメをしない教育はもちろん大切だが、イジメに対する「負けない強い精神力」が大切だ。これを鍛えていくのに空手道が注目されていて、子どもたちを入門させる希望者が増えている。
今回の大会には、バイオロジー、環境問題に詳しい世界的に著名な「デイビッド鈴木博士」が会場に来ていた。鈴木博士のお孫さんが、バンクーバー・アイランドのクィーン・シャーロットにある佐藤会の道場に入門しており、熱心に観戦していた。子どもたちの折り目正しく、はつらつとした試合ぶりには、親族ならずとも誰もが目を細めたくなるものだ。
(取材 笹川守)
佐藤代表(左)の模範演技
佐藤代表の模範演技を見つめる子どもたち
沖縄古武道の武器(左から)船の櫓、棒 (3本)、(右上)サイ、(下)ヌンチャク
沖縄古武道の演技
(左から)デイビッド鈴木博士、 マートン堀田会長、佐藤代表