2018年11月15日 第46号
日本人初の本格的ボサノバシンガーである小野リサさんが、アメリカのサンノゼ、ロサンゼルス、カナダのトロント、そしてバンクーバーを巡る北米ツアーをおこなった。11月4日、バンクーバー市のクイーン・エリザベス・シアターでの公演ではたくさんの観客に迎えられて、ぬくもりを感じさせるステージを展開した。
第2部では中国語の楽曲も歌い観客を魅了した
スタンダードナンバーをしっとりと
ボサノバの名曲「Summer Samba」、ふんわりとかわらしい雰囲気の「Pretty World」で幕を開けた第1部は、英語詞の歌を中心に11曲を披露した。バックにピアノ、ウッドベース、ドラム、サクソホン、フルート、クラリネットのミュージシャンを従え、ジャズよりなアレンジが多い印象だ。「Fly Me to the Moon」「Take Me Home, Country Roads」「ケ・セラ・セラQue Sera Sera」などスタンダードな楽曲を柔らかな歌声でしっとりと歌う。おそらく誰もが耳にしたことがある有名なボサノバの曲「イパネマの娘 Girl from Ipanema」は、英語とポルトガル語で歌い、その後アップテンポなブラジル音楽のメドレーが続く。後半からはチェロ、ビオラ、バイオリンのカルテットも参加し、音にさらに厚みが加わった。小野さんのナチュラルで、ややハスキーな歌声も魅力たっぷりだが、バックを支えるミュージシャンの卓越した演奏も聴き心地がよく、上質の音楽を楽しめた。
優しい世界に包まれて
休憩を挟んだ第2部では10曲を披露した。ピアノ伴奏のみでの「Moon River」でスタート。背後のスクリーンにぽっかりと浮かび上がった満月の画像が、しっとりとした歌声と共に幻想的な雰囲気をつくる。ステージの最初に「みなさんを世界旅行にお連れします」と話した通り、コンサート全体を通して英語、ポルトガル語に加えて、日本語、中国語、フランス語でも歌い、さまざまな国の美しい音楽の世界を聴かせてくれた。
「黄昏のビギン」「星影の小径」はいずれも1950年代に発表された歌謡曲で、多くのアーティストがカバーしているスタンダード作品。旋律も歌詞もどこか懐かしさを含んでいて、優しい歌声もあいまって郷愁を誘う。続いて中国語の曲を3曲。小野さんは、数年前から中国各都市でもコンサートツアーをおこなっているだけに中国での人気も高い。今回のバンクーバー公演にも多数の中国系の観客の姿が見られた。ロマンチックなラブソング「我願意」では、観客も一緒に口ずさんでいた。他にも、やはり数多くカバーされているシャンソン「バラ色の人生 La Vie en Rose」や、スティービー・ワンダーの「You are the Sunshine of My Life」なども柔らかでいてポジティブな雰囲気で、聴いているとほんわりとした気持ちになった。ジャズ風にアレンジされたジェームズ・ブラウンの「I Feel Good」、そして、陽気なサンバのリズムの「Samba de Orfeu」で幕を閉じた。歓声にこたえてのアンコールでは、「バンクーバーに着いた時に虹を見たので」ということで「虹の彼方に Over the Rainbow」を歌った。
残念だったのは、小野さんがギターをつま弾くところが楽譜スタンドに隠れていて見えなかったこと。それでも、華やかな演出や大音量といったもので彩られるコンサートとは違って、穏やかで優しい雰囲気にあふれるコンサートだった。そっと心に寄り添うような小野リサさんの歌声によってリラックスした気持ちになれた。
小野リサ
ブラジルのサンパウロ生まれ。10歳までブラジルで過ごし、15歳からギターを弾きながら歌い始める。1989年デビュー。「ボサノバの神様」アントニオ・カルロス・ジョビンや、「ジャズ・サンバの巨匠」ジョアン・ドナートら著名なアーティストと共演してきた。1999年のアルバム「ドリーム」が20万枚を超えるヒットを記録、これまでに日本ゴールドディスク大賞ジャズ部門を4度受賞。2013年にはブラジル政府よりリオ・ブランコ国家勲章を授与されるなど、日本におけるボサノバの第一人者としてその地位を不動のものとしている。デビュー30周年目を記念して、今年から来年初めにかけて日本全国ツアーを開催している。
(取材 大島多紀子/写真提供 Huachang Bros Culture Ltd. )
スタンダードな楽曲をしっとりと歌いあげた第1部