2018年11月8日 第45号

日系人コミュニティに受け継がれた唯一の戦前からの建造物「バンクーバー日本語学校並びに日系人会館」。この地で日系コミュニティを見守り続けた日系人会館が今年、竣工から90周年を迎えた。

それを記念して10月27日、これまでの90年を振り返り、これからの90年へとつなげるための「日系人会館90歳の誕生会」が開催された。 午後からイベント目白押しの3部構成。

午後の部では子供向け催しと日系人のルーツをたどる講演会が、夜の部では華やかなエンターテイメントが披露された。

ここでは「日系人のルーツをたどる講演会」でのタシメ博物館発起人ライアン・エランさんの講演を紹介する。

 

タシメ博物館を紹介したエランさん、講演を終えた後に資料のあるブースで。2018年10月27日

 

日系人収容当時を再現したタシメ博物館 ライアン・エランさん講演

 日系人のルーツをたどる上で避けては通れないのがカナダ政府による日系人強制収容政策。ブリティッシュ・コロンビア州海岸から100マイル以東へと強制移動させられ、州内の強制収容地での生活か、アルバータ州以東への移動を強いられた。

 州内に点在する収容所のうち、バンクーバーから最も近く国内最大規模だったのがタシメ収容所。約2700人が生活していた。現在のサンシャインバレーだ。

 ここに収容所時代の様子を再現した「タシメ博物館」を設立したのが、ライアン・エランさん。強制収容が始まった1942年当時に存在した精肉店を博物館へと変身させ、2016年夏にオープンした。

 この日講演したエランさんは、「今日は日系会館90周年の誕生日というだけでなく、私にとっては、そしてローラさんにとっても、1年前のちょうど今日、タシメに最初の日系収容所記念表示板を設置した記念すべき日でもあります」と紹介した。

 これは、2016年から日系コミュニティとBC州政府が協力し実現した州内9カ所の収容所とロードキャンプ跡地に日系収容所があったことを説明する表示板を設置する「日系人強制収容75周年記念レガシープロジェクト」の表示板除幕式のことを指す。第1回が2017年10月27日タシメで行われた。博物館のすぐ隣に表示板は設置されている。

 このプロジェクトを推進したのが日系人遺産プロジェクト委員会。その委員長が同校理事の1人で、この日司会を務めたローラ・サイモトさん。サイモトさんとエランさんにとって、27日は表示板設置から1周年という記念の日でもあった。

 そして今年9月7日には博物館の拡張を記念した式典が開催された。近くのロードキャンプ跡地での表示板設置式典に合わせたもの。というのもロードキャンプとタシメ収容所は切っても切れない関係にある。

 博物館の写真を見せながらタシメ収容所について説明するエランさんは、タシメに収容所が設置された理由を、現在のハイウェイ3のホープ・プリンストン間を建設するために、当時の強制移動政策を利用して強制労働させていた日系人男性の家族を集めるためと語った。

 その当時の日系人の収容所での生活の様子を紹介したのが同博物館。中には当時使用されていたアイテムや写真パネルを展示している。また、拡張された部屋には当時の台所やベッドルームが再現されている。

 なるべく当時の様子を残すため、できる限り現存する部分を残した。壁や床、天井などは1940年代に使用されていたものだという。展示されているものは、日系博物館や日系人家族から協力されたものが多く、タシメ博物館を日系人にとっての唯一無二な場所にしている。

 広さは開館当時の268平方フィートから1400平方フィートに拡張された。タシメ博物館の成功には日系コミュニティと地元フレーザーバレー・リージョナルディストリクトの協力は欠かせなかったという。

 現在は通年で週末オープンしている。これから冬に向かう中、雪が1メートル以上積もる写真を示して、「こんな気候の中、暖房も、水道も、電気もない生活を強いられていたのは想像を絶する」と語った。

 タシメ博物館は最近、映画の撮影にも使用された。ヒストリカ・カナダのヘリテージミニットが戦前の日系野球チーム朝日軍を紹介するために撮影場所としてここを選んだ。エランさんはタシメの歴史コンサルタントとして協力。スタッフに当時の独身男性が暮らしていた部屋を紹介したと楽しそうに話した。エランさんの本物志向が実を結んだ瞬間だ。

 ここに来れば、当時強制的に移動させられた日系人たちがどのような生活をしていたのかを垣間見ることができる。想像もつかない厳しい状況でたくましく生きてきた日系人たちの過去に光を当て、これからの未来に、こうしたことが二度とどのコミュニティにも起こらないよう教訓とするためにも、タシメ博物館の役割は大きい。

 現在も拡張中でまだまだプロジェクトはこれで終わりでないという。タシメ博物館は、毎週土、日曜日午前10時から午後4時まで開館している。

14781 Alpine Blvd, Sunshine Valley, BC, V0X 1L5

タシメ博物館についてhttps://www.facebook.com/tashmemuseum/

タシメの歴史については、http://tashme.ca/を参照。       

(取材 三島直美)

 

タシメ博物館内に再現された当時の台所。当時は一つのShackと呼ばれる棟に最低8人が暮らしていたという。2018年9月7日撮影

 

タシメ博物館(奥)と記念表示板。サンシャインバレーでの記念式典で。2018年9月7日撮影

 

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