2018年10月11日 第41号

 これまでバンクーバー国際映画祭に度々招待されてきた廣木監督。 久しぶりに訪れたバンクーバーは高層ビルが多くなり、 ホテルの窓から見える風景が違っていると感心していた。1982年のデビューからこれまで多くの作品が批評家トニー・レインズ氏をはじめ海外プログラマーに推薦されてきた。コマーシャルはもちろんだが、ピンク、恋愛、青春など、特に女性を優しく扱った作品を中心に海外でも根強い人気がある。今回はVIFF本部のあるバンクーバー・サットンホテルで話を聞いた。

 

レッドカーペットに登場した橋本さんと廣木監督

 

ジャンル分けにこだわらない

 廣木監督といえば、2000年にVIFFに招待された映画『不貞の季節』を思い浮かべる人もいるだろう。ピンク映画ではなかったが、裸の入った作品でSM小説家とその妻との奇妙な恋愛関係を描いた作品で話題になった。さらに監督は少女漫画の映画化作品にも定評がある。例えば大ヒットした作品の『PとJK』では、警察官と16歳の女子高生との恋愛が描かれた。警察という仕事柄、未成年との交際など普通ではありえない関係だが、観客をその世界に引きずり込むために監督は、外見の関係よりも恋している二人のリアルさに目線をずらしたという。また「ピンク映画も恋愛映画も作るときは全て同じ」と意外な言葉がかえってきた。例えばピンクや恋愛映画の中にアクションを盛り込めば、その量によってカテゴリーも変えることができるからだ。

 

小説と映画

 2015年に『彼女の人生は間違いじゃない』で小説家デビューして、2017年に映画化している廣木監督。小説と映画の両方を自分で作れるというのは夢のようだが、監督は自分で小説を書くとその世界観から出られないと指摘する。そのため自分の小説を映画化するときは、脚本を別の人に任せ、ディスカッションをしながら進めていく。「他人の目を一つ入れる」ことが大事なポイントになるそうだ。また小説はいったん書き上げると作品が自分の中で完結するため、映画ではまた別のものを作ろうという気持ちで取りかかっている。違う目線になってまた新たに完結させたいとする反面、「つまらない原作だ、いったい誰が書いたんだ、あ、俺だ」と思ったことがあると監督は笑いながら話してくれた。 

 監督は映画『さよなら歌舞伎町』や今回の『ここは退屈迎えに来て』のような群像劇で、主人公が一人でなく複数の登場人物によって一つのテーマが見えてくるという映画作りを好む。例えばエピソードごとに主人公がいて、地方で生活している人の様子など描くことにも興味があるそうだ。 

 世界初上映『ここは退屈迎えに来て』で、今回は主演女優の橋本愛さんと一緒に来加した監督。カナダのプレスやラジオ局とのインタビュー、プレス・コンフェレンス、レッド・カーペットなど、アジア映画では異例な多忙スケジュールだが、「今回は現地の友達にも会うつもり」と気さくな笑顔で次の場所に向かった監督。現在取り組んでいる監督の次作品にも注目したい。

 

女優 橋本愛

 橋本愛さんがエレベーターに乗るとその瞬間、周囲が黙ってしまう。若い女優さんだがファッションモデルのようなスタイルとツヤツヤの黒髪で存在感がある。そして一言で「きれい」と誰もがうなずく女優である。バンクーバーに到着した彼女を待ち構えていたマスコミの中には、無断でムービー・カメラを持ち込もうとする姿もあった。映画『ここは退屈迎えに来て』のワールド・プレミア初日レッド・カーペットの前日、橋本さんはインタビューに応じてくれた。

 橋本愛さんはベルリン国際映画祭でも数本の映画が同時招待されたことがある。様々な映画に出演しているが、ジャンルについては作品や作家のテーマなどに自分から興味を持ったり、心から共感することで作品づくりに入り込む。自分が心惹かれることを常に大事にしているようだ。

 

正直に演じている

 かわいくメルヘンチックなのにホラーもできる『アジアのクリステン・スチュワート』と称され、時々マスコミで彼女と比較される橋本さんだが、「えー?」という声で笑い、役を演じる時はその瞬間の自分の「正直な声」に素直に対応していると答えた。例えばこれには惹かれないと思ったことは、できるだけ自分から与えない、また自分はすごく好きだがリスクがあると思ったときは「好き」という気持ちを大事にして、他の環境を整えてから役のしたいことを「やらせてあげたい」と語る。今回の映画の「私」のような一人の平凡な女性役でも、ホラー映画の役でも何でもやりたいと話す。「基本的に私は飽き性で、同じことをずっと続けられないから 」と笑った。

 映画の中ではアットホームな雰囲気だったり、宇宙から来た完璧な『金星女性』だった橋本さん。役作りをしているのでなく、役になりきっているように見えるのだがという質問にふと顔を上げ、「それが役者さんの理想だと思うんですけど…」と前置きし、「でも、なっている、と自分で思ったことはめったにないです」と謙虚に話した。作品の中で、自分で見ている自分と人から見られている自分が全然違うときがあり、自分の感覚は全く頼りにならないと思ったことがある、また漫画の役づくりは、読者の中に表情とか声のイメージが植え付けられているため、プレッシャーになると思うとまじめに答えてくれた。  

 

 初めて来たバンクーバーは、海が近くて大きな公園があり、緑、水、高層ビルなど贅沢なぐらい何でもある街だった、いろいろな要素を感じながらぜひゆっくり歩いてみたいと語った。深々とお辞儀をして歩く後ろ姿は、日本の大物女優到来を感じさせた。

(文 Jenna Park/写真 中村"Manto"真人)

 

地元のインタビューに応える廣木隆一監督

 

プレミア後のお二人

 

Q&Aの質問に丁寧に答える橋本さん

 

ふとした仕草(笑顔)もすてきな橋本さん

 

ふとした仕草(笑顔)もすてきな橋本さん

 

こんな表情もかわいい

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。