2018年8月9日 第32号
カナダ連邦政府のジェニー・クワン議員が発起した、毎年12月13日を「南京大虐殺記念日」に制定するという案に反対を唱える「カナダの人種和合を促進する期成同盟」が結成された。7月11日には一般向けの公開説明会も開かれ、この運動に共鳴する人への協力が呼びかけられた。期成同盟の委員長を務めるゴードン門田氏に、期成同盟結成の経緯や今後の動きなどについて話を聞いた。
ゴードン門田氏
記念日制定への反対理由について
「まず、日本と中国の間で80年前に起きたことであり、カナダ国もカナダ人も全く関係のないことにもかかわらず、その記念日をカナダで制定することを、国会に持ち込むということはあるべきことではないと思います。ましてや、こういう記念日を制定するということは、カナダにおいて間違いなく人種間の摩擦が生じることになると考えられます。また、カナダ国外で起きた不当行為を言う以前に、カナダの歴史を振り返って、カナダ政府のいくつもの不当行為を知るべきと思います。代表的なものは日系人の強制移動ですが、それに類した行為がいくつかあります。それらはカナダで起きたことであり、カナダ国民が影響を受けたことです。こうしたことが将来再び起きてはいけない、という思いで記念日を制定するのであれば意味があると思います」
期成同盟委員会の結成の経緯
「ジェニー・クワン議員が国会にこうした動議を申し立てようとしています。過去にも申し立てたことがありますが、その時は成立しませんでした。そして今年4月に再申請したわけです。それが我々の反対運動のきっかけとなりました。クワン議員は、こうした申し立てをするのと同時に、5月からはメトロバンクーバーの5カ所で署名運動も始めました。私の知る限り、カナダ全体でこの署名運動をおこなっているわけではなく、クワン議員の地元において多く居住している中国系の人々に、特に呼びかけて署名運動をおこなっているということです。これでは、何も予備知識のない中国系の人々に、『そんなことがあったのか』という感情を引き起こし、ひいては抗日感情を引き起こすことになると思われます。日系カナダ人と中国系カナダ人の間で、今までにはなかったような摩擦が生じる可能性があるということです。これは恐ろしいことだと思います。
3、4年前に、バーナビー市に従軍慰安婦像が建てられるという動きがありました。そのとき日系カナダ人、各団体からの有志や代表者が集まって、反対運動を起こしました。その時はバーナビー市へ反対の意思を表明しました。今回は連邦政府に向けてということで、グレーターバンクーバーの日系コミュニティーに呼びかけました。さまざまな日系の団体に呼びかけた中で、特にこの運動に共鳴される方たちで期成同盟をつくりました。期成同盟のメンバーは15人いますが、必ずしも組織や団体を代表しているとは限りません」
「人種和合を促進する期成同盟」という名称について
「記念日制定に反対するというような名称はネガティブで、対立をあおるような響きがあると考え、カナダにおける人種間の和合を促進するという意味の名称がいいだろうと考えました。記念日を制定することによって、中国系と日系の対立につながり、ひいてはカナダの人種間の摩擦にも広がっていく可能性があることを心配して、反対を表明していますが、まず、そのような摩擦をなくして、まさに人種の和合を促進すべく、今の名称を選びました」
これまでの活動
「期成同盟の第一の目的は南京大虐殺記念日の制定に反対するということで、中国系カナダ人との対立を望んでいるわけでは決してない。カナダの国会は6月半ばで終了し、再開するのは9月半ばです。クワン議員は、国会閉会の数日前にも改めて国会にこの件を申し立てています。我々としては、国会がこの動議を取り上げることすら阻止したい。そのために何ができるかと考えました。期成同盟として反対の意をどこに向けて表明するか。そして、クワン議員に直接反対を表明することと、連邦政府の国会議員すべてに、こういう記念日の制定はあるべきではないと申し立てましょうということになりました。同時に、トルドー首相にも申し立てをします。
7月11日の公開説明会で、クワン議員と自分の住む地区の国会議員あてに、反対表明の手紙を出して下さいと呼びかけました。その際に、議員の名前、手紙を出す人の署名などを書き足せばすぐ出せるように、英文手紙のテンプレートをお渡ししました。ですが、その後の期成同盟の委員会において、『1人の国会議員の方が、10〜20人から全く同じ内容の手紙をもらってどれだけ効果があるのだろうか、どこまで読まれるだろうか』という懸念が出てきました。もちろん、出さないよりはいいとは思うのですが。本来ならば、手紙のサンプルのようなものを提供して、手紙を書く本人が自分の言葉で書き換えるほうが効果があるのではないかと考えました。ただ、日本語圏で生活している方に英語で手紙を書くことはハードルが高いし、英語ができる方であったとしても誰でも効果的な手紙を書けるというわけではない。それでも議員に手紙を書こうと思うという方たちには、我々としてもできるだけサポートしたいと思っています。
期成同盟としては、国会議員全員に手紙を書くことにしています。カナダの日系人を代表する全カナダ日系人協会には我々のナショナルアドバイザーになってもらっていますが、ここにも手紙を書いてもらえるように話を進めています。9月半ばごろに国会が再開するのであれば、8月下旬から9月の第2週くらいには国会議員はオタワに戻るだろうと思い、そのあたりに手紙が届くように考えています。
全カナダ日系人協会といった大きな団体が関わってくれるのは心強いです。個人または期成同盟だけで訴えるだけでなく、インパクトが違ってくると思います。ほかにもトロントの日系文化会館の理事長も共鳴してくださっており、団体として手紙を準備されているとも聞いています」
今後の動きについて
「私も含め、期成同盟のメンバーで国会議員と面識があるという人もいます。そうした国会議員と会って、我々が懸念していることを話し、議員の方それぞれの考えも聞きたいと思っています。他のNDP(新民主党)の議員がクワン議員の考えをどう見ているのか、同じ政党だからサポートせざるを得ないと思っているかなども聞けたらいいのですが。保守党(Conservative)や自由党(Liberal)の議員とも会うことになっています。いろいろな党の国会議員に会って話すことで、我々も教わることも多いでしょうし、参考になる点も出てくるのではないかと思っています。いろいろな方法でアプローチしなくては、と考えています。
国会議員全員に手紙を出すということは決まっていますが、そのあと具体的に何をするかを検討中です。今後、日系に限らず、英語のメディアなどにもプレスリリースを出すことで、広い層から関心を得ることができるかもしれないとも考えています」
(取材 大島多紀子)