2018年6月7日 第23号
「別れても離れられない。 カナダの法律が私たちを縛ることになるとは…」DV(ドメスティック・バイオレンス)を振るう男性と婚姻関係にあった子持ちの女性はこう痛感している。そんな女性たちにDV日本語ホットラインを担当するYWCAの加瀬さんは数多く会ってきた。女性のサポートに関わり始めて18年、ホットライン開設から1年が経ち、「困った事態を未然に防げないか」の思いは高まるばかりだ。
■親権を振りかざして
さて、次の文章は正しいだろうか?
「日本人女性がバンクーバーで結婚、出産し、その後離婚した。離婚後、母親は子供を連れて日本に永久帰国することができる」
これは、親権を持つもう一人の親、つまり夫が許可すれば○。許可がなければ×。それは永久帰国のみならず、一時的な帰国であっても同じ。「両親と会う権利が子供にあるんです。それは日本でもBC州でも、どこにいても適用されます。勝手に子供をもう片方の親から引き離すと犯罪になります。DVの夫が、子供を人質に取り、妻が自分から離れられないようにするのはよくある手です」加瀬さんはこう言ってさらに続けた。「DVやモラハラの夫の場合、たとえ承諾しても、子供が片親と離れて暮らすことを承認した正式な文書や裁判所命令が出されていなければ、母親と子供が帰国後、父親が警察に子供を誘拐されたと訴えることもありえます。全くそれまで子供と会っていなかった父親でも、日本に子供が連れ去られたと知ったとたんに訴える父親もいます」
■「別れても離れられない」
つまり、たとえ夫との生活に耐えられず、離婚が成立したとしても、子供を夫と会わせ続けなければならない可能性は高い。そうした女性たちの経済的、物理的、心理的負担はいかほどか。
■「暴力をします」「詐欺をします」と看板を下げている人はいない
話の対象を広げよう。結婚や出産の有無を問わず、DVの被害に遭うこと自体、言葉にし難い苦痛である。しかも、自分で自分を責めることで生まれる苦痛も大きい。しかし「DVや詐欺などの被害に遭っても決して自分を責めないで」と加瀬さんは言う。加害者はとても巧妙に事を企むからだ。例えば出会いの場面では、偶然を装って知り合いになり、交流の中で女性の信用を獲得する。そしてある時、挨拶としての身体的接触の延長のように、深い行為に及ぼうとする。そのときに女性が拒んでも「ここはカナダだから」と勝手な論理で相手をまるめこむ。
また詐欺の場合は、日本人の友人を連れてきて共に過ごすなどして女性を安心させ、女性との間にごく少額の金銭の貸し借りをして信用を得る。そして一緒に買い物に出かける。男性が支払い時にカードが使えない姿を相手に見せて「あれ、おかしいな。ちょっと立て替えてほしいんだけど」といった具合に相手からお金を引き出す。すべての行動が犯行のシナリオ通りだったという怖いことが実際に起こっている。
■DV被害に遭わないために
加瀬さんのこのメッセージに思い当たることがあったら、ぜひ立ち止まって考えてほしい。
「こちらの意見をはっきり言ったとたん機嫌が悪くなる、束縛が激しい、いつも人のせいにするというのはDV加害者によくある傾向です。もし相手が日本人だったら、そんな傾向を持つ人と付き合うでしょうか。また、言葉でうまく理解しあえないから仕方ない、文化が違うからしょうがないとあきらめて、大事にすべきことを置き去りにしていませんか? 定職に就いていなくても、生活が乱れていても、ここはカナダで自由な社会だからと許容してしまっていないでしょうか。お互いの共通言語でしっかりコミュニケーションを取ることなしに、相手と公平な関係を築くことができるでしょうか」
■「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」
DV日本語ホットラインは2017年に開設された日本語による電話相談サービスで、目的はDVを受けている在留邦人への支援。DVホットラインの相談対象は、夫からのDVに限らず、会社の同僚、ホストファミリー、交際中の人など女性の身近にいる人からのDVにも対応している。またDVには身体的だけでなく、精神的虐待、経済的な虐待も含まれる。 このプログラムは在バンクーバー日本国総領事館がYWCAに業務委嘱しており、この窓口を通じて無料相談、関係機関(裁判所、警察、弁護士事務所、法的支援機関、病院、生活保護など)への同行、諸手続きの支援、通訳を受けることができる。
(取材 平野香利)
DV日本語ホットライン
604-209-1808
(月〜金曜日 午前9時〜午後5時、祝祭日を除く)