2018年5月24日 第21号

多文化主義で、様々な背景を持つ人々が共存する寛容な国カナダのここバンクーバーで、「南京大虐殺記念日」を制定しようという運動が始まり、日系社会に強い衝撃が走った。

戦時中、日系人は強制移動、財産没収などの不当な処遇を受けた。潜在差別意識を呼び起こしかねないこのような記念日の制定運動に対して、日系社会に迅速な対応が望まれる。

 

 

 バンクーバーで発行されている中国語新聞、星島日報5月16日付のウェブ版によると「南京大虐殺記念日」制定の署名活動が5月17日、メトロバンクーバーを中心に正式に開始された。この運動は、カナダ連邦国会議員ジェニー・クワン氏が発起したもので、同議員は10万以上の市民による署名を10月15日までに集め、カナダの国会に提出するというものである。

 これにより12月13日を「南京大虐殺記念日」として制定するよう連邦政府を促し、当時、西側の目撃者から「この世の地獄」と称された歴史を世の人々が銘記し鑑とすることを希望している。

 市民の署名は、メトロバンクーバーの5カ所以上で行われ、同運動はカナダ第2次大戦災禍史実擁護会(ALPHA)と全国カナダ華人連合会など100余りの社会団体から支持され、全国各地で積極的に活動が繰り広げられる。

 もし「南京大虐殺記念日」が制定されれば、日本人、日系人に虐殺のイメージがつき、特に子供たちが何らかの差別の対象となることは想像に難くない。毎年来る記念日により、その被害は子々孫々にまで及ぶ。日系社会においては、この問題の重大さを認識し、早急に意思の表示をすることが望まれる。

 現在、既に、日系コミュニティの各団体のリーダーなどに、世話人としてゴードン門田氏より、書簡が送られている。近日中に、日系社会の重大な問題として協議の場が設けられる見込みだ。透明性と公共性のある委員会のようなものが結成され、反対意思表示の具体的な方法などについて議論されることとなろう。この他、クワン議員宛に個人から意見や抗議を英語で送ることも可能である。

 オンタリオ州議会では、2016年12月に香港系のスー・ウォン州議会議員が、南京記念日制定法案を提出。トロントALPHA が、中華料理店や商店街などで大規模な署名運動を繰り広げた。結局、その時「法案」の採択には至らなかったが、2017年10月にオンタリオ州議会で法的拘束力のない「動議」としてほとんど審議のないまま可決されてしまった。この動きに反対する日系社会が挙げた理由は、次の通りである。

Q. なぜカナダにおける南京虐殺記念日制定に反対か?

A. カナダは、様々な人種、国籍、性別、宗教等を受け入れる多様性を強みとした国。これからも色々な背景をもつ人々を迎え入れる、寛容で成熟した社会であり続けてほしいから。

【理由】

1 南京虐殺記念日は、多様性を重んじるどころか、かえって憎悪と不寛容を助長する。カナダ政府が作ろうとしてきた多文化主義に基づく参加型社会の実現に逆行する。

2 二つの外国間で80年前に起き、両国の緊張の種となってきた歴史問題をカナダ国内に持ち込み、一方だけの主張に荷担して論争を激化させることはカナダにとって得策ではない。カナダが関与すべきとしたら両国の和解を促し、未来指向型の関係構築に貢献すること。

3 日本は戦後一貫して平和を愛する国家として国際的にも貢献してきた。日本とカナダは経済、文化をはじめとして緊密な関係を築いてきており、お互い重要なパートナー。両国の市民によって育まれてきた日本との関係を損ねるようなことは非生産的である。

4 日系カナダ人はかつてカナダにおいてひどい人種差別を受けたが、財産没収、強制収容などに対するリドレス(戦後補償)運動を展開し、これを勝ち取った。カナダが、人権を尊重し、多文化主義国家を標榜する平和な国家となる上で、大いに貢献してきた日系コミュニティを再度居づらくさせないで欲しい。

5 再び差別と偏見を生む可能性を憂い、南京虐殺記念日制定に反対する。

 トロントでの署名運動では、この歴史問題がなぜここカナダで扇動されているかについて、全く背景知識を持ち合わせないまま、言われるがままに署名してしまった人も数多くいると聞く。コミュニティ間に分断を招くこの署名運動を早期にやめるよう、ジェニー・クワン議員の賢明な判断を期待する。

 バンクーバー新報では、記念日制定運動に関する新しい情報があり次第、逐一掲載する予定である。

(編集部)

 

 

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