2018年5月17日 第20号
深みのある瞳、フサフサとした羽毛——作品からフクロウの存在感が伝わってくる。この作品を描いたのは、ブリティッシュ・コロンビア州ソルトスプリング島在住の大津アニカちゃん(10歳)。アニカちゃんの作品は「ザ・ワイルド・ポストカード・プロジェクト —アートワークコンペティション2018」のBC州大会で1000を超える応募の中から入賞12作品の一つに選ばれた。
写真前方に大津アニカちゃん、(写真左から)教師のGerri
生物多様性の認知を促す企画として
非営利団体ザ・ワイルド・ポストカード・プロジェクトが行うこの絵画コンクールは、子供、教師、そして一般の人々に生物多様性の認知を促すことを目的としている。活動の発起人は生物研究者であるブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の アンジェラ・スティーブンソンさん、生物多様性教育の研究者であるアイルランドのアイリーン・ディスキンさん。二人は研究で縁のあるアイルランド、フィリピンで同コンクールを開催し、今回のBC州大会は4回目の実施となる。参加対象は5歳から18歳で、作品にはBC州に生息する生き物を描写することが求められた。
フクロウの思いが伝わってくるアニカちゃんの作品
5月12日、バンクーバーのUBC内グリーンカレッジでの授賞式には、50人を超す人たちが訪れた。審査員から「繊細で非常にソフト、そして知恵を感じさせる作品」と紹介を受けて、アニカちゃんが賞状と記念品である絵はがきを受け取った。1%の確率で入賞した12作品は力作揃い。中でもアニカちゃんの絵画は、フクロウの瞳から強くメッセージが伝わってくる。そして平面作品ながら、パステルの重ね使いで羽のふわっとした質感、生きもののぬくもりが表現されている。こうした繊細な感性はどうやって育ってきたのだろうか。
自然の中で学ぶ日々
アニカちゃんは現在、週のうち3日、ウィズダム・オブ・ザ・アース —ウィルダネス・スクールに通い、自然に触れ合いながら学ぶとともに、フェニックス小学校が運営するホーム・ラーニング・パートナー・プログラムの中で読み書き、計算などの学習に取り組んでいる。同プログラムは自宅に教師が訪問して学ぶ仕組み。その教師であるジェリー・チャールトンさんが今回の絵画コンクールに応募を促し、アニカちゃんの作品が生まれる過程を傍らで見てきた。「アニカは自分からパステルを選んで、見事にフクロウの羽の質感を出したのです。非常に意識を集中してこの作品作りに取り組んでいました」(チャールトンさん)。「フクロウが好き」というアニカちゃん。父親の大津彰久さんは羊毛でフクロウ作品を作るアーティスト、そして自然豊かな環境にある自宅のデッキの上にはフクロウが止まっていたことがあるという。鳥ということでは「よく家で飼っているニワトリにアニカは話しかけていますね」と母の大津明樹子さんは語る。
アニカちゃんが通っているウィルダネス・スクールは屋根と柱だけがある場所を拠点としており、壁のある施設はない。生徒は毎日必ず1回、決まった場所に座り、視界に入るものを眺め、周囲の音に耳を澄ませ、空気を体感する時間を持つ。「きっとそこでいろんなものを観察しているのだと思います」(明樹子さん)。同スクールのプログラムでは、火を起こしたり、鳥の鳴き声を学んだり、樹木を肌で感じてみたりするという。
絵はがきが一般の人たちの手に
入選した12作品は絵はがきのセットとして、近々、インターネット上の手工芸品の販売サイトEtsyで販売される予定だ。野生の生き物たちにかわり、世の人々に彼らの思いを届けてくれる作品が手に入る日は近い。
(取材 平野香利)
アニカちゃんの描いた作品「真夜中のメンフクロウ(Midnight Barn Owl)」(左側)、右側は絵はがきになったもの