2018年3月15日 第11号

ときは天正十年(1582年)六月二日。茶道の創始者、宗易がお客を招き、京都某所で開いたお茶会という設定で、3月2日、ブリティッシュ・コロンビア州ノースバンクーバー市で『天正十年 六月二日の茶会』が開かれ、3席合計18人が戦国時代を想定した茶室で、高山宙丸さん演じる『織田信長』との茶会を体験した。

 

略式にせず手書きで送った招待状

 

本能寺の変を描く

 毛筆での記名、香煎、煙草盆。庭に造られたつくばいで手を清め、にじり口から頭を低くして茶室に入る。普段の生活からかけ離れた世界は、それだけで緊張を感じるというもの。

 着物姿の女性が「所用で不在の夫、宗易の代わりに亭主を務めさせていただきます」と挨拶する。おりき役を演じたのは高橋恭子さん。宗易の晩年の呼び名が利休である。

 饅頭と抹茶が振舞われる。途中でがたがたとにじり口が開き、息せき切って飛び込んできたのは、高山宙丸さん演じる袴姿の武士だった。暁のころ、本能寺のあたりでなにやら大変なことが起こっている模様だと話し、詩を朗読する。喉が渇いたので茶を点ててくれと、さし出した黒楽茶碗の銘はかがり火。

 遠くで鐘の音が響き、窓から見えるのは焼け落ちる本能寺。家臣明智光秀の謀反によって織田信長が寝込みを襲撃され、自ら寺に火を放ち自害した事件『本能寺の変』が起こった瞬間である。

 武士が去ったあと、しばらくして茶道口から現れた侍が茶をくれという。凛としたおりきが平静を保ちながら点てた茶に「おかしいな、味がしない」とひとこと。ここで客たちは、この侍が死んだ信長の亡霊だと気づく。

 

戦国時代にタイムスリップ

 茶道とポエムのコラボという新しい試みの仕掛け人は、詩人の高山宙丸さん、茶人の高橋恭子さん、コーディネートと裏方を担当したゆりえほよよんさんの3人。 「天正十年六月二日の茶会という年代設定をされたのは宙丸さんです。炭で湯を沸かし、お饅頭を手作りし、利休好みの丸卓を用い、この茶会の要となる茶碗は黒楽にするなど、当時の茶会を想像してお客さまをお迎えできるよう努めました」と、高橋さんが細部にわたるまで気を配った。

 緊張ぎみだった客たちは、目の前で繰り広げられる戦国時代の人物の掛け合いにタイムスリップしたようにひきこまれた。「天正の時代とこの21世紀を往き来しちゃった?!始まりから仕舞いまで予想不能かつ空前絶後の、まさにゆめまぼろしのごとく也…な、お茶会を体験体感させていただきました」と参加者のひとり高野眞由美さん。

 茶室という異空間で、参加型のパフォーマンス。武士と信長をひとりで二役演じた高山さんは「舞台はお客さんと一緒に作るものなんて言いますが、それをそのまま実現したようなイベントになりました」と感想を述べた。

 「茶道というと堅苦しくて、作法もたくさん身につけなければならず敷居が高いと思われている方が多いのですが、実はそうではなく、日常生活が潤う要素がたくさん含まれていておもてなしの心を学ぶことのできる素晴らしい『道』であることをお伝えしたく企画した茶会です」と高橋さんは話している。

(取材 ルイーズ阿久沢 写真提供 ゆりえほよよんさん)

 

織田信長に茶を点てるおりき

 

(左から)織田信長を演じた高山宙丸さん、おりき役の高橋恭子さん、利休の息子の小庵役のローレンスさん、コーディネートと裏方を担当したゆりえほよよんさん(撮影:ルイーズ阿久沢)

 

黒糖を使った蒸し饅頭。 今は利休饅頭と呼ばれている

 

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