2018年1月1日 第1号
アーティストとして活動するためには想像力、芸術性、資金作り、健康面などあらゆる要素が必要である。バンクーバーを拠点に国内外で活動する平野弥生さん(舞踏家)とケン・シェさん(指揮者)に話を聞いた。
平野弥生さん
平野弥生さん (撮影:Yukiko Onley)
舞踏家の平野弥生さんとカナダの出会いは1986年。カナダ各地やロサンゼルス、ヨーロッパやアジアで巡演したあと、バンクーバーは前衛的なものや芸術の受け入れが難しいのではという懸念があったことも事実だと話す。そんな中、この30年間、精力的に新作を発表し続けてきた。
体と相談しながら
2002年にカナダで今の夫と結婚して3カ月で乳がんが見つかりました。翌年から抗がん剤治療が始まり、自分の体と相談する時期が続きましたが、2005年に久しぶりに作品を作って、乳がんサポートのファンドレーザーとして『四季』を上演しました。
2009年に胆のう摘出手術を受け、2014年にカナダ・カウンシルの助成で日本へリサーチ旅行をした後半には慢性硬膜下血腫が判明。これがカナダに来て5回目の手術で、ドクターからは「もう少し遅かったら、生きていなかったかも」と言われました。
思えば私はいつも前だけを見て走っていることが多く、そういう時に『働きすぎ!』と体が反乱を起こすようです。今は体と相談しながら、無理をしないように心がけています。
カーネギーホールで公演
大きな作品では『心中』『物語』『Identity-Ancestral Memory』『Medea-Rokujo』『Okuni—Mother of Kabuki』を創作・上演し、バンクーバーオペラの『蝶々夫人』ほか、劇団や団体の振付けも多数担当しました。
2017年は大きな飛躍がありました。サラ・デイビス・ビュクナーさんとのコラボレーション『物語』(ジャック・イベール作曲)をニューヨークのカーネギー・ホールで上演する機会を得て、NYタイムズほか、その他のレビューで絶賛されました。
この成功により今年は、ワシントンDC州にあるスミソニアン博物館群のフリーア美術館での公演が4月12日に、またブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市のウェントワース・ビラでの公演が5月10日に決まっています。
映画出演や後輩の指導も
2016年に、吉田真由美さんという若い女優さんが祖母の話を元に制作した『AKASHI〜あかし』というショート・フィルムに出演しました。この映画は各ショート・フィルム・フェスティバルに呼ばれ、NBCユニバーサルのショート・フィルム・フェスティバルでは4600作の中から最優秀脚本賞を受賞しました。そのあと出演した香港映画『Fatal Visit』は今年封切りの予定です。
現在若い方たちを指導する機会が増え、それぞれが俳優やパフォーマーとして、より大きく羽ばたけるようお手伝いができたらと思っております。秋には日本で『俳優のための表現の基本』というワークショップを開催しました。
いずれにしても体あっての仕事なので、毎日の健康管理に水泳やエクササイズ、食べものにも気をつけ、いつもポジティブに生きていきたいと思っています。
Sakura Days Japan Festivalにて自作のお面をつけて飛んでいるところ (撮影:Yukiko Onley)
2017年カーネギーホールでサラ・デイビス・ビュクナーさんとのコラボレーション
平野弥生(ひらの・やよい)
兵庫県宝塚市出身。桐朋学園大学演劇科卒業と同時にマイム活動開始。89年、文化庁の在外研修員としてドイツとカナダで研修。帰国後YAYOI THEATRE MOVEMENTを設立。世界各地のフェスティバルに出演し13カ国30数都市で公演。ジャズの日野皓正、ピアニストのサラ・デイビス・ビュクナー、マイムのニッキー・ソティロフなど、国境とジャンルを越えた共同制作も数多く展開。能面製作は現在18面あり、自身の公演ほか依頼でも作成。2002年よりバンクーバー在住。
ケン・シェさん
バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ(VMO)音楽監督・首席指揮者のケン・シェさん(撮影:Mayowill Photography)
国内外で活動を続けるバンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ(VMO)音楽監督・首席指揮者のケン・シェさんは、日本で指揮の勉強をしたことから大の日本びいきだ。
日本の演奏家を招へい
今、バンクーバーでは日本食、日本の音楽、ダンス、文化など、本当に日本のものが求められていると感じています。
恩師である『故岡部守弘指揮者追悼コンサート』で、これまで遠藤真理さん(チェロ)、川久保賜紀さん(バイオリン)、近藤薫さん(バイオリン)など才能ある若手演奏家を招へいし、一昨年には木下美穂子さん(オペラ歌手)との共演を実現しました。また日系プレース基金主催でポップの広瀬香美さん、中(あたり)孝介さんと共演しました。
親友の林家三平一家のイベントを提案したときは日系センターが主催となり、たくさんの方のご協力を得て開催することができました。
子どもの音楽教育
楽器を習わせる場合、その子に合ったいい先生を見つけることが大事です。CDやインターネットではなく、演奏会に連れて行って生演奏を聴かせてください。バンドやオーケストラと一緒に演奏する機会も大切です。
音楽は子どもの脳を刺激しますから、政府はもっと子どもの音楽教育に力をいれてほしいですね。ベネズエラで始められた音楽教育『エル・システマ』を見てください。無償で集団での音楽教育を与えた結果、子どもたちを暴力や犯罪から守り、子どもたちは規律を守り協調性を持って目標に進んでいくようになりました。音楽を通して自己表現の社会革命を起こしたわけです。
音楽は世界共通語です。私もVMO団員と共に、バンクーバーの小中学校をまわっています。
2018年の抱負
昨年VMOが15周年を迎え、バンクーバー交響楽団(VSO)のアシスタント指揮者時代に指導を受けた長井明さんと一緒に『第九』を演奏しました。
日本での『第九』は2011年以来、大阪シンフォニーホールで続けています。
2018〜2019年シーズンは、大阪の堺市で始まるプロジェクトにゲスト指揮者として参加します。
今年のVMOコンサートでは、テレビ番組『Ellen』に出演して話題になったライアン・ワンくん(9)が共演し、ベートーベン・ピアノ協奏曲第2番を演奏します。どうぞお楽しみに。
VMO定期演奏会にて(撮影:Mayowill Photography)
毎年ダウンタウンで開催される野外コンサート(撮影:Mayowill Photography)
ケン・シェ (Kenneth Hsieh)
エドモントン生まれ。ブリティッシュ・コロンビア大学で ピアノと打楽器を専攻後、桐朋学園、洗足学園大学院にて指揮課程を修了。故岡部守弘、秋山和慶、湯浅勇治らに師事した。2004年から3年間、バンクーバー交響楽団のアシスタント指揮者。現在バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラの音楽監督兼首席指揮者。05年カナダ・オンタリオ州芸術評議会より『ハインツ・ウンガー賞』、06年、カナダ政府文化評議会より最優秀若手指揮者に与えられる『ジャン・マリ・バデ賞』を受賞。日本ほかアジア、ヨーロッパ、北米の交響楽団などに客演。
(取材 ルイーズ阿久沢)