2018年1月1日 第1号

岡井朝子在バンクーバー日本国総領事(写真 斉藤光一)

 

■2017年を振り返って印象に残ったことなどを教えてください。

 「カナダ建国150周年、カナダへの日系移民140周年、第二次世界大戦時の日系人強制収容75周年といろいろな節目の年でした。また、BC州によって56カ所が日系歴史遺産として認定されました。日系人はカナダ西海岸の建国の歴史とともにあり、持ち前の忍耐力と強靭さで苦難を乗り越え、カナダが多文化主義を標榜して、多様性の共存を重視する社会となることに貢献してきました。そして、将来の世代にもこの事実を継承しようとする真摯な努力が続いています。私はこうしたことをカナダ人、そして現代の日本人にも知ってもらいたいと思い、日系人の軌跡を積極的に訪問し、それを発信して認知度向上へ貢献することを心がけました。2018年はリドレス(強制収容に対するカナダ政府による公式謝罪と補償)30周年となります。今年も日系人の軌跡を追っていきたいと思っています。

 昨年もジャパンフェア、パウエル祭などの日系のお祭りや、文化・交流行事に数多く参加しました。カナダデーパレードでは、総勢250人が参加したバンクーバー音頭がフィナーレを飾り圧巻でした。また、練習帆船の海王丸や自衛隊練習艦隊が寄港し、注目度も高まりました。昨年の台湾フェストは『Kanpai Japan!』と称して、日本と台湾との深いつながりから生まれた文化・人的交流を特集してくれたことが印象的でした。カナダの多様性を重視し、同化ではなく共存を目指す姿勢や、移民先の国で新しいアイデンティティを求めようとする姿には新鮮さを感じました。

 昨年の一時帰国の際に、和歌山市を訪問しました。今年、和歌山フェアを開催する準備を進めており、総領事館としても和歌山特産品のバンクーバー進出を後押ししたいと考えています。地方創生や中小企業の海外振興などの取り組みが日本国内で進んでおり、姉妹都市関係が多い当地には、多くの地方自治体の方々が訪問されました。

 また、JETプログラム、カケハシ・プロジェクト、Co-opプログラム、日加コンソーシアムなどに加えて、姉妹都市交流、学校交流、スポーツ交流など、草の根で素晴らしい実例を見てきました。未来につながる若者交流の輪をもっと広げたいとの思いを強くしました。

 2018年は明治維新150周年ということで、カナダ建国150周年と日本の近代化を同じ時間軸で俯瞰したらおもしろいと思い、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)に働きかけたところ、熱心に取り組んでくれることになりました。UBCでは『Meiji at 150』と題して、今年3月末までさまざまな講座、展示、ワークショップを行い、ポッドキャストでも発信します。日本の近現代の歩みをカナダの人々にもっと知ってもらう取り組みを強化したいです。その一環として、現在、若い世代向け映像コンテンツを制作中で、学校訪問などでも活用する予定です」

 

■ SNSでの発信も積極的に取り組んでいらっしゃいますね。

 「国のイメージはその国の人や文化などに触れることで作られると思います。日本の多様な魅力をより幅広い層へ伝えて、日本という国のイメージを良くしたい、日本に関心があるという層を新たに増やしたいと考えています。今どきこうした親日派、知日派の方の育成、拡大のためには、SNSでの発信は不可欠なので、慣れないながら努力を重ねてきました。

 また、バンクーバーには文化・人的交流や医療福祉などに携わっている団体がたくさんありますが、そういったところと積極的に連携することで、より大きなインパクトのある形で実施することを目指してきました。総領事館の広報インフラが整えば、いろいろな団体の有意の活動の発信をお手伝いできると考えております。

 総領事館とは別に総領事の公式フェイスブックを始め、これまでに400件以上を投稿しています。また『総領事ジャーナル』と題して8つのテーマに分類し、これまでの投稿をアーカイブ化する作業も行っています。YouTubeチャンネルも開設し動画も投稿しています。総領事館の方のフェイスブックやツイッターも更新頻度を上げています。

 こうした取り組みにより、総領事館に前より親しみを感じたり、活動に興味を持ってくれる人が増えたのではないかと思います。これまでリーチアウトできなかった層にも届くようになりましたし、協力団体とSNSで広報効果を高めあうような取り組みも、少しずつできるようになりました。

 在留邦人や日系人、カナダ人一般に届くような方策で情報を発信することが重要だと考えています。若者に届くためにはSNSは不可欠ですが、シニア世代には向かない場合もあります。メールや紙媒体などいろいろな手法を組み合わせて、発信力を強化していきたいと考えています」

 

■ 当地に在住する邦人の安全面での対策にも力を入れられていました。

 「当地のコミュニティのニーズに寄り添い、在住邦人の方々にきめ細やかなサービスを提供するためにも、情報を必要としている人に届くように発信したいと思います。これまで総領事館のホームページでは、それなりの情報は掲載されているものの、見つけにくかったり、それがあることも知られていなかったりしました。総領事館に相談は寄せられますが、それは氷山の一角でしょう。ですので、ワークショップなどを通じて、専門的な情報を持つ人と、それを必要とする人たちをつなげたいと考えました。これは、情報提供する一方で実態を把握し、今後の発信方法の参考にもなります。当地には協力団体が多くあるので助かります。特に、邦人の安全対策、防災、医療や介護、高齢者対策、子供の連れ去りやDV、ワーキングホリデーや学生特有のトラブルといった分野は潜在的ニーズが高く、重視しています。今後もテーマを選んで発信していきたいと思っています」

 

■ 2018年の展望をお聞かせください。

 「BC州新政権との間で日本との関係強化の重要性を印象づけ、日系企業の懸案・要望事項などを伝えていきたいと思っています。安倍政権は、生産性革命と人づくり革命を車の両輪として、少子高齢化という最大の壁に立ち向かうため、2020年東京オリンピックまでの3年間に集中的に投資し、大胆な施策を取ることを明言しています。その中に、関係強化のためのさまざまな『機会』が潜んでいるはずだと考えます。これまでも安倍政権の成長戦略の中で、官民連携による経済関係活性化を目指してきました。エネルギー、森林産業、IT、クリーンテクノロジー、デジタル産業、日本の農産物や、和食、日本酒の振興など、引き続き潜在力のある分野を後押ししていきたいと考えています。

 2018年は日本とカナダの外交関係樹立90周年でもあります。これまで築きあげてきた友好関係をより一層強固なものとしたいと思っています。また、日本のさまざまな魅力や、コミュニティに役立つ情報をより多く発信していくためにも、当地の皆さまといっそう協力していきたいと思っています」

(取材 大島多紀子)

 

在バンクーバー日本国総領事公邸を訪れたシニアの皆さんと「恋ダンス」。好評だった動画は総領事館のHPからYouTubeをクリックすると閲覧できる(写真提供 在バンクーバー日本国総領事館)

 

カンバーランドの日系人墓地でのお参り(写真提供 在バンクーバー日本国総領事館)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。