2017年12月14日 第50号

「毎日オムライスを食べにきてくださるおじいさんがいらっしゃるので」。週7日営業の理由を語るバンクーバーの「まるりるカフェ」オーナー森下園子さん。そんな家庭的なカフェを今、いっそう魅力的な空間にしているのがバンクーバーの風景写真の展示だ。私たちの知っている真冬のバンクーバー、その風景の片隅にひっそりと収められた何気ない人々の暮らし。静かなドラマが流れる斉藤光一さんの作品には、日だまりのようなぬくもりがある。

 

(写真左から)Marulilu Cafeオーナーシェフの菊地克正さん、森井園子さん、写真家の斉藤光一さん。三人のコラボ空間が心地良い

 

写真からあふれる冬のバンクーバーの味わい

 12月4日、閉店後の展示作業は真夜中までかかった。大掛かりなタペストリー作品がその理由だ。

「私は斉藤さんが写真を取り付けている最中から(興奮で)ドキドキしちゃって。特にイングリッシュベイの写真に釘付けで…。翌日、お客さんがくまなく写真を見て回られて『この人すごいね!』って斉藤さんの連絡先を聞いてこられたんですよ」(園子さん)。

 写真展のテーマは「冬のバンクーバー」。日本の洋食が人気で常連客の多いこのカフェに、あえてバンクーバーの風景写真を持ってきた。そこには理由がある。日本での仕事からバンクーバーに戻る度、グランビル橋を渡り、ダウンタウンのビル群、ノースショアに広がる山々を見て、斉藤さんはほっとする。そしてじっくり向き合うほどに、街や風景が醸し出すバンクーバーならではの味わいが見えてきた。写真はパノラマにすることで、カナダの大きさ、そして人の営みも捉えることができた。「こんなバンクーバーがあるんだと知ってもらえたら—」独自の視点で引き出した風景に地元の人はどうリアクションするか、そこに注目している。

 

2016年の冬から毎日欠かさずバンクーバーを撮影

 写真教室の生徒たちには「毎日考えながら自分の写真を撮っていこうよ」と伝えながらも、自分は結婚式からスポーツ撮影まで、依頼された撮影に終始。そんな自分に恥じて、どんなに忙しくても「1日1時間は自分で選んだ被写体を撮影する」と決め、バンクーバーの風景や植物を写し始めた。撮影のモチベーションを維持する仕組みも作った。撮った写真を毎日「フォト・フロム・カナダ」と題したメールで個人のネットワークに配信し、見る人を意識したのだ。その配信をきっかけに「日本へのお土産用に購入したい」とリクエストを受けて、フォトカードの制作を開始。「部屋にカードを飾って楽しんでいます」という声が励みになって、より撮影に熱が入るようになった。

 馴染みのまるりるカフェは、日頃の撮影指導の場でもある。生徒たちを連れてきてコーヒーやスイーツを並べて撮影。傍らでは園子さん、菊地克正さんの朝早くから働く姿がある。「働き詰めの二人に感謝と癒しが少しでも届けば」それが師走の写真展へ自分を駆り立てる力となった。

 

常に新しいことを

 バンクーバーのシンボルの一つ、小型フェリーのタペストリー作品は28のパネルで構成されていて、そこには5ミリメートル×8ミリメートルの画像が、トータルで4万2840点使われている。つぶさに見ると、かろうじて写っている人物がわかる。斉藤さんは毎週パネルの一つを新たな画像に差し替えていくという。日々出会った人や風景が、作品の新たな構成要素となるのだ。「いつも新しいことを、面白いことを」同じ思いから自身のウェブサイト(http://www.k-graphicphoto.com)やインスタグラム(k-graphicphoto)の写真も、バンクーバーに焦点を当てて日々更新中だ。

 毎日カフェに来るおじいさんは、パネルの画像のわずかな変化に気付くだろうか。数千のフォロワーを集める写真家の小さな投げかけが続いていく。

(取材 平野香利)

 

4万2840点の画像で構成されたタペストリーは毎週更新されて生まれ変わる

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。