2017年11月2日 第44号

バンクーバー市のThe Cultchで10月26〜28日、トモエアーツ主催による能オペラ「通小町 Kayoi Komachi/Komachi Visited」が上演された。日本の伝統芸能である能楽と西洋のオペラが融合された、新しい形の芸術作品を観ようと多くの観客が訪れた。

 

秋をイメージしたオレンジのドレスをまとうヘザー・ポウシーさん。後方左から、村岡聖美さん、ジョセフ・ブルマンさん、柏崎真由子さん、ピーター・モナハンさん(写真 Trevan Wong)

 

西洋と東洋の文化が混ざり合う舞台

 能の演目である「通小町」と「卒塔婆小町」を元にして作られたこの作品は、ファシード・サマンダリさんが作曲、コリーン・ランキさんが台本を書くと共に舞台監督を務めた。主役となる深草少将を金春流能楽師の山井綱雄さん、小野小町をヘザー・ポウシーさんが演じ、2人の心の傷を癒すカウンセラー役をメラニー・アダムスさんが演じた。金春流の能楽師、村岡聖美さんと柏崎真由子さんが能の謡を、ジョセフ・ブルマンさんとピーター・モナハンさんがオペラのコーラスを担当。オーケストラには小鼓方の大村華由さんが加わった。

 時代や場所の設定のない舞台に、深草少将との情熱的であり心が乱されるような関係をひきずったまま、さまよっている小野小町が現れる。その苦悩を語る相手であるカウンセラーとのやり取りがあった後、深草少将が登場する。深草は小町への愛を証明するために百晩通い続けることを求められるが、99日目に病死する。英語と日本語の織り交ぜられた歌詞には、小野小町の短歌5首も取り入れられている。成就しなかった愛の苦しみを表現する「百夜」のシーン、山井さんによる能の舞が圧巻。ヘザーさんの表現力豊かなソプラノと共に観客の心を揺さぶった。

 

終演後のインタビュー 

 ヘザー・ポウシーさんは「異なる文化が交わるステージは、刺激的で充実したものとなりました。音楽も、能の動きや歌い方を習うのも難しかったですが、素晴らしい経験でした」と、親しみやすい笑顔で話してくれた。また、山井綱雄さんは「私たち能楽師も普段はやらないコーラスや西洋の歌い方などをして、お互いにチャレンジし、歩み寄ることで今までにない新しいアートの可能性を見出せたと思います」と語った。3日間の公演を終えて寂しい気持ちもあると同時に、新しい挑戦の始まりだという気持ちもあるという。

 いつもとは違った動きを多く求められたという村岡聖美さんと柏崎真由子さん。「能では連続の公演というものはないので、3日間気持ちを持続させるというのがすごく大変でした。能は型が決まっており、それを覚えて演ずるのですが、今回はその場で演出が決められるような感じで、とっさに動くことに苦労しました」(村岡さん)。「集中力を保つというのもそうですし、指揮に合わせて歌うということに慣れてなかったので。少しずつ慣れてきたかなという時に終わり、という感じでした」(柏崎さん)。オーケストラの西洋の楽器にもすっかりなじんでいた大村華由さんの小鼓の演奏。「ファシードさんが能楽を勉強してくださり、そちらに近づけるように素晴らしい音楽を作ってくださったから、そう見えたのかもしれません。今までやったことのないパフォーマンスでしたので、今後の糧になると感じました」と話してくれた。

(取材 大島多紀子/ 写真 中村みゆき)

 

ドレスリハーサルでは山井綱雄さんはマントをつけているが、収まりが悪く本番では無しになったという(写真 Trevan Wong )

 

ヘザー・ポウシーさん

 

山井綱雄さん

 

大村華由さん

 

村岡聖美さん(左)と柏崎真由子さん

 

 

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