2017年10月26日 第43号
トモエアーツが主催する能オペラ「通小町 Kayoi Komachi / Komachi Visited」が、 バンクーバーのThe Cultchで、10月26日〜28日まで上演される。10月20日、在バンクーバー日本国総領事公邸で、世界初上演となるこの作品を記念するレセプションが開かれた。
岡井朝子在バンクーバー日本国総領事(中央)、山井綱雄さん(左から5人目)、ヘザー・ポウシーさん(同4人目)、岡井総領事の横はコリーン・ランキさん、村岡聖美さん、柏崎真由子さん、大村華由さん
能のエッセンスも披露
レセプションには、日本から参加する能楽師の方々はじめ、能オペラに出演するキャスト、トモエアーツの理事、バンクーバーオペラ、バンクーバー・インターカルチュラル・オーケストラの関係者、スポンサーなど、約40人が出席した。
始めにトモエアーツのアートディレクターのコリーン・ランキさんが、多くの人たちの協力を得て能オペラが上演される運びになったことへの謝辞を述べた。続いて、金春流能楽師の山井綱雄さんが、人々の共存共栄を祈ることが能楽を演じることでの最大のメッセージであるとして、日本と西洋の文化交流を形にしたこの作品を通して世界の平和への祈りが届けられたら良いと語った。
そして、山井綱雄さんの能の謡と小鼓方の大村華由さんによる『猩々(しょうじょう)』、山井綱雄さんによる舞と、村岡聖美さんと柏崎真由子さんによる地謡での『高砂』が披露され、レセプションに列席した人たちから感嘆の声が上がっていた。最後に乾杯の音頭を取った岡井朝子在バンクーバー日本国総領事は、「伝統的な日本の能と西洋のオペラがどのように融合されるのかまだ想像もつかないのですが、作曲家、監督、キャストの皆さんが、この世界初の実験を通して、どう新たな芸術を作り上げるか、来週の公演を楽しみにしています」と述べた。
日加の文化交流の結晶
能楽師のみなさんは公演の行われる約3週間前から来加、カナダ側のキャストらとリハーサルを重ねている。公演を控えてそれぞれに話を聞いた。
主役の1人、深草少将を演じる山井綱雄さんは「最初の一週間は戸惑いの連続でした。徐々にこなせてきて、少し、これはいけるんじゃないかという感じがしてきました。能を題材としているけれど、これはあくまでもオペラなんですね。その中で、いかに能の要素を取り入れてもらうかといった提案をしたり、お互いに書き換えながら進めています」と話す。バンクーバーには初めて来たという小鼓方の大村華由さんは「小鼓は湿気を好む楽器でして、バンクーバーは雨がたくさん降るので、すごくいい音が出ると実感します。パーカッション、バイオリン、ビオラなどそれぞれの音が響き渡っているのと、少しでも調和できればいいなと思っています」と言う。
謡とコーラスを担当する村岡聖美さんと柏崎真由子さんは、能楽とは違うオペラの世界についていくのが大変だったと話す。「日頃の能の稽古と違うところが多過ぎて、最初は戸惑ったんですが、だんだんと雰囲気に慣れてきました。それでもまだ全くついていけてない部分が多くて、来週が本番なので気合いを入れてやらないと、と思っているんです」(村岡)。「そもそも楽譜が読めないという状態から始まっているようなレベルですから。能楽では指揮者に合わせるという感覚もありませんし、テンポというものもないですし。指揮者のジョナサン・ジラードさんの指揮が頼りという感じなんです」(柏崎)。オペラ側のキャストが能の動きを表現したり、普段は座ったままで地謡をする能楽師キャストが、動きを要求される場面もあるという。今までに見たことのないステージが展開されることに期待が高まる。
(取材 大島 多紀子)
岡井朝子在バンクーバー日本国総領事
山井綱雄さん(右)と大村華由さんによる『猩々(しょうじょう)』
『高砂』を披露する(左から)山井綱雄さん、村岡聖美さん、柏崎真由子さん