連弾の楽しさ

「ピアノを弾くということは、自分とピアノだけの孤独な作業とも言えます。だからこそ、ほかのピアニストと一緒に弾く楽しさを皆さんに知らせたいのです」と語るのは、バンクーバーのピアノ教師でノース・ウエスト・ピアノ・アンサンブル協会会長のウィンフレッド・ロンフー(Winfried Rompf)氏。1988年以来、バンクーバーでピアノ・デュエット(1台のピアノで連弾)やピアノ・デュオ(2台のピアノ演奏)など、ピアノ・アンサンブルの紹介に力を入れている。

 

4つの合唱団が参加

ロンフー氏の夢は、このユニークな形式を大きな舞台で発表することだった。8台のグランドピアノに16人の国際的ピアニスト。アジア、北米出身者に加え、トミスラフ・バイノフ(Tomislav N. Baynov)氏らヨーロッパのピアニストも招聘した。
さらにピアニストのアレクサンダー恵子さんとステファニー・チャン(Stephanie Chung)さんの協力により、韓国系合唱団『バンクーバー・ザイオン・ミッション・クワイアー』、日系合唱団の『さくらシンガーズ』『ウィンズ・クワイアー』『NAVコーラス』から総勢200人が参加。さくらシンガーズの音楽監督ルース鈴木さんは「クイーンエリザベス劇場という大きな舞台をぜひ団員に経験させたかったのです」とこの企画に賛同した。

さまざまなアレンジ

舞台には左右に4台ずつ、計8台のスタインウェー社製グランドピアノが置かれ、ピアニストが8人、6人、4人とポジションを替えながら演奏。プログラムには8台のピアノ32手、6台のピアノ24手、とまるでかけ算式のような表記があるが、それだけ多くの手が調和しながら鍵盤を叩くというアンサンブルの難しさと素晴らしさを表しているのだろう。
『きらきら星変奏曲』(モーツァルト)にバイノフ氏のジャズ・アレンジ、勇敢なリズムの『おお、フォルトナ』(カール・オルフ)を8台のピアノ用にアレンジしたものや、お馴染み『ラプソディー・イン・ブルー』(ガーシュイン)からの抜粋、アバのヒット曲『Money Money Money』のアレンジ曲など、クラシックからポップスまで幅広い選曲がピアノのみの音色に弾みをつけた。
第1部の最後では4つの合唱団から総勢200人が『フィンランディア』(シベリウス)を大合唱し、ステージを盛り上げた。

 

音楽は世界共通語

16人のピアニストたちは、ダウンタウンのTom Lee楽器店で、毎日夜3時間のリハーサルを重ねた。「ヨーロッパから参加したピアニストの中には英語もドイツ語も話さず、イタリア語だけという方もいらしたのですが、さすが音楽は世界共通語。意思の疎通が出来ました」とアレクサンダーさん。ひとつの音楽を作り上げるという目的を通して友情が生まれたことも、収穫のひとつだと話す。
同協会では11月に第3回国際ピアノ・アンサンブル・コンペティションを開催。ピアノ・アンサンブルの魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと関係者らは話している。


(取材 ルイーズ阿久沢)

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