2017年8月10日 第32号

バンクーバーのブリタニア・コミュニティ・センターで7月29日、バーナビー在住の後藤えむ(オジャ・エム・ゴトウ)さん(以下エムさん)が執筆した小説『しらゆきのゆめ』の出版記念パーティーが開かれた。会の中では小説作りのワークショップが行われ、参加者12人は物語の創作に挑戦。披露された個性あふれるストーリーに会場が沸いた。

 

「ノベル・セラピーで皆さんのリミテーションを外すお手伝いができたら」と後藤えむさん(撮影 斉藤光一さん)

 

物語にすることで癒される過去

 小さい頃、物語の世界の中で遊び、「いつか小説家と呼ばれる人になりたい」と夢見ていたエムさん。大人になってからいくつも小説を書いてみたものの、どれも借り物のような印象に。そしてやぶれかぶれで書いたのが、幼い頃の思い出をテーマにした小説。それは振り返りたくない過去ばかりだったが、その私小説を読んだ時、エムさんは心に確かな変化を感じた。負と感じていた過去が「何回も読み返したくなる好きな出来事」に変わっていたのだ。

 もともと心の癒しを仕事としてきたエムさん。「物語化」による癒しの力を、ぜひ必要な人たちに実感してもらえたらとノベル・セラピー・セミナーを着想。『しらゆきのゆめ』はセミナーのテキストともなる小説本として刊行した。子供時代のエムさんが見た出来事、感じた思いを、何のフィルターも通さず物語仕立てにした短編作品6点は、読む者を童心に帰らせる。小説には英訳文が併記され、読者が自分の思い出をメモするページも挿入されている。

 

限りない世界に自分を解き放つマジック

 小説作りワークショップでエムさんは、「小説は宝物探しです」と、一般的な物語の構成を紹介。参加者は、配布された子供の写真と質問用紙にある「主人公の名前は?」「探している宝物は?」といった問いに答えながら物語を構想した。その後、参加者が書き出したものを発表。「弟に嫉妬心を抱くエリカは、母からの関心を引きたくて美しい野草を探す」「ソウルメイトを探して主人公がタイムトラベルをする。宝探しの障害となるのは現在の世界の価値観」など、どれも個性と創造性豊かなストーリーばかりだった。

 参加者の一人は、皆の伸び伸びとした自由な創作を目の当たりにして、「自分が自分に掛けていた心の制限の外し方がわかった」という。エムさんは語った。「即興で思いついたことはすべて潜在意識からやって来ます。潜在意識の中には皆さんが感じたように無数の物語があります。その物語はイコール無限の可能性です。無限の想像力は無限の可能性! 皆さんが自由な心で楽しく紡いだ物語は、自分の心と人生に掛けていたリミテーションを外すマジックです。物語の主人公はあなたの中にいるインナーチャイルド。語られる物語に方向性が示された時、あなたのインナーチャイルドも動き出し癒されます。人生の無限の可能性の実現のため、どうかこれからも物語を紡いでください」。

 

自分の生きた証しも小説にして表現

 エムさんは今後、こうしたノベル・セラピー・セミナーを発展させるとともに、希望者にはそこから生まれた作品を『しらゆきのゆめ』のような小説に仕立て上げ、出版するサポートを行う予定だ。また内容は幼少期に限らず、人生全体の小説化もメリットがあるという。「自伝は自慢話の印象がもたれやすいですが、物語にするとより読者からの共感が得られます」。現時点でも、すでに出版への申し込みがあり、反響は上々だ。

 自分の人生を小説化し出版。一昔前は一部の人だけが可能だった活動が、電子書籍やプリント・オン・デマンドの普及などにより可能な時代になったことが、エムさんの構想を後押ししている。

(取材 平野香利)

 

後藤えむ(オジャ・エム・ゴトウ)さん
東京出身。大学卒業後、東京の出版業界でアートディレクターとして活動。その後、1998年にカナダに移住し、写真家、編集者、ヒーラーとして活躍してきた。2011年には著書『光の鍵』(明窓出版)を出版。2012年よりウェブマガジン「Cradle Our Spirit」を編集し、毎月発行している。
https://ojhas-healing.com/

 

自由に想像する楽しさを体感する時間となった

 

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