2017年7月27日 第30号

7月21日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で、桜楓会主催の健康講座が催された。講師に昭和大学歯学部口腔生理学講座の井上富雄教授を迎え、歯と口の中の健康について専門的な内容をわかりやすく説明した。この講座は企友会、日加ヘルスケア協会、日系女性企業家協会(JWBA)、Expedia Cruiseshipcentresが後援した。約40人の参加者が熱心に話に聞き入り、質疑応答の時間にもたくさんの質問が寄せられた。

 

図式や画像を使って、専門的な内容を分りやすく説明した講演

 

和食は健康的な食生活を支える

 おいしい食事を取りながら健康に過ごすためには、歯や口の中が健康であることが大切だ。私たち人間が感じる味覚のうち、甘味・うま味・塩味・酸味・苦味の5種類が基本味とされる。辛味などは基本味とは別の神経が伝えるのでこれに含まれない。味覚は摂食時に飲食可能なものかを判断したり、食べる楽しみを生み出すものでもある。

 1908年に池田菊苗教授が昆布からグルタミン酸ナトリウムを発見、これがうま味と認知されるようになった。うま味を料理に少量加えると、コク、まろやかさや重厚感が増す。うま味を料理に上手に取り入れると食塩の代わりになり、食塩の使用量を控えることが可能といえる。

 また、匂いや体調も味覚を左右する影響が強い。食べ物の匂いは、鼻の穴を通って感じられるだけではなく、食べ物を噛んだ時にも匂い成分が喉の奥から鼻に抜けて、口中香(こうちゅうか)が生じる。口中香は味覚と合わさってその食べ物の風味となり、おいしさの大事な要素のひとつとなる。食料が豊富な現代においては、いろいろな食材の味と香りのハーモニーがおいしさの秘訣といえよう。近年、和食はユネスコ無形文化遺産に登録されたが、味や見た目の美しさだけでなく、カロリーや食塩の摂りすぎを防いで健康に良いということも評価されたからだろう。

 

自分の歯で噛めることの大切さ

 食事をおいしく取るためには歯ざわり、舌ざわり、噛みごたえも重要な要素だ。哺乳類の歯の構造は複雑で、食べ物をかみ砕くだけでなく、すり潰して咀嚼し、食べ物を細かく粉砕することができる。これにより、歯ざわり、舌ざわり、噛みごたえ、風味の感覚が起こっておいしさを楽しむことができる。それと同時に食べ物の表面積が増えるので、消化液が作用する効率が上がる。咀嚼には上下の歯がうまく噛み合わさる必要がある。これには、歯根の周りの組織や、噛む筋肉の中にあるセンサー(感覚受容器)が大事な働きをするので、自分の歯を健康な状態で残すことが重要だ。

 食べ物をよく噛むと、満腹中枢が刺激されるので食べ過ぎを防いだり、唾液が出て虫歯の予防になるなど、さまざまな効果をもたらす。加齢に伴い、筋力など身体のさまざまな機能の低下が見られ、噛む力も衰える傾向にある。噛む力が弱まると、緑黄色野菜などの摂取が減って、軟らかいものや油の多いものを多く取るようになってしまいがちだ。こうしたことから、脳血管障害や心臓病、糖尿病のリスクが高まる。また奥歯が抜けて噛む場所が減ると、動脈硬化のリスクが高まるという報告もある。自分の歯を大切にすることは健康的な生活を送るために重要だ。また、歯周病などで抜歯しなくてはならなくなった場合でも、義歯やインプラントなど適切な歯科治療を受け、噛む能力を保つことが大切だ。

(取材 大島 多紀子)

 

講師紹介 井上富雄氏
兵庫県出身。大阪大学歯学部卒業後、同大学で講師を経て、2000年昭和大学歯学部教授に就任。日本顎口腔機能学会会長、文部科学省の大学設置・学校法人審議会専門委員などを務めた。現在は昭和大学歯学部口腔生理学講座教授。歯学博士。

 

 

桜楓会の久保克己会長(左端)と井上富雄氏(中央)。後援団体の代表者の方々と

 

講師を務めた井上富雄氏

 

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