2017年6月8日 第23号
今年4月、在バンクーバー日本国総領事館は日本語による電話相談サービス「DV 日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」を開設した。目的はドメスティック・バイオレンス(DV)を受けている在留邦人への支援である。
ハーグ条約の発効とトラブルを背景に
ホットライン開設の背景を、在バンクーバー日本国総領事館の松田茂領事はこう語る。「2014 年4 月1日、『国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約』(いわゆる「ハーグ条約」)が発効し、不法な子の連れ去り発生を抑止しようとする枠組みができました。その一方、子を持つ在留邦人がDV 被害者であっても、子を連れて日本に里帰りしたり、逆に子を連れてカナダに帰国した場合、ハーグ条約の対象となり、訴訟ざたになるケースも指摘されています」。
こうした状況の変化に対処するため設けられたホットラインとアウトリーチ(支援)のサービスは、同総領事館がYWCA に業務委嘱しており、対象者はBC 州およびユーコン準州に居住の日本国籍を有する女性。この窓口を通じて無料相談、関係機関(裁判所、警察、弁護士事務所、法的支援機関、病院、生活保護など)への同行、諸手続きの支援、通訳が受けられる。
広い意味でのDV ー精神的、経済的なハラスメントも
実際に被害者のサポートに当たるYWCA の加瀬さんに、日本人女性が陥りがちな状態について話を聞いた。身体的虐待は被害がわかりやすいが、例えばパートナーが「お前の英語では、どこに行っても雇ってもらえない」のように女性の自尊心を傷つけて自立する機会を奪ったり、女性が実家や友人に電話をかける時にはそばで聞いていて干渉したりして、女性の交友関係を狭め、自分の思い通りにするような精神的、心理的なハラスメントも深刻だ。
けんかをしても言葉で勝てず、パートナーはその日によって強行な態度に出たり穏やかだったりと予期不能。そんな日々を過ごすうち、女性はビクビクしながらの生活になり、周囲に助けを求めようとしても、もはや孤独な存在になっていて、声を上げられなくなっているという。
一人で悩まずにまず相談を
悩んでいたら、「とにかく相談してください」と松田領事と加瀬さん。もし、それ以前に身の危険を感じたら、911 に電話を。また警察が来ても状況がうまく説明できず、話を聞かれただけで終わってしまい、その後二人きりになった場合、余計ひどい目に遭わされては危険だ。警察にトランジションハウス(駆け込み寺)に連れて行ってもらえるようお願いしよう。そしてその際、パスポートなど大事な書類をさっと持ち出せるような準備や、今までのことを書面に残して警察官に見せられるような普段の準備が大事だという。
「当然のことですが、別居によって、すぐに理想の生活が待っているわけではありません。子供のこと、仕事のこと、住居のこと、時には訴訟のことなど対応すべきことがたくさんあります。しかし、毎日家で相手の顔色をうかがい、辛い生活を強いられていた時よりも 別居により自分を取り戻し、自分の力で物事を決められるようになってよかったと、多くの女性は言っています」
女性のサポートを長年続けてきた加瀬さんは、先のような事例を多数見てきた。決して限られた人に起こる特別なことではないという。加害者が非常に巧みに相手をコントロールするため、被害者自身では身動きが取れなくなりがちなのだ。
そんなDV 行為を行うパートナーと一刻も早く離れてほしいと願うのは、女性の家族や友人も、加瀬さんも同じ気持ちである。しかし加瀬さんは周囲の人たちに強く願うことがある。「いつまでも逃げないでいる女性を責めるようなことはしないで」。その女性に子供がいる場合などは、特に逃げることでは事態が一気に解決しないのも事実。子供の養育、当面の生計確保などを優先し、DV に耐えている女性は、その場で精一杯の力を使っている。その必死な思いを汲み取ってほしいという。
「自分の置かれている状況がDV かどうか判断のつかない人は、自分自身に問いかけて」と加瀬さんは言う。「付き合う前と今の自分を比べてみてください。以前と比べて自信がなくなった、何をするのも怖くなった、不安、辛い、悲しいことが多くなっていないか。そして子供さんに将来パートナーができた場合、自分と同じ環境だったらと」。
電話で相談するのに抵抗があれば、Eメールでもよい。確かに第三者が物事を解決してくれる訳ではない。「行動するのは本人」、しかし一緒に歩んでくれる人がいる心強さは、利用者が一番かみしめている。
DV 日本語ホットライン:604-209-1808(月〜金曜日午前9 時〜午後5 時、祝祭日を除く) This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
(取材 平野香利)