2017年5月11日 第19号
迫力の演奏、感動の嵐
5月5日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で『カレン五明チャリティー・コンサート』が開催され、世界で活躍するヴァイオリニスト、カレン五明さんがメンデルスゾーンの『ヴァイオリン協奏曲ホ短調』を演奏した。 参加者は日系センターを支援する人やクラシックファンなど約250人。
音楽に詳しい人もそうでない人も、そこにいた人たちみんなが感じたことはひとつ。「素晴らしい」のひとこと。言葉にできないほどの感動だったのではないだろうか。
カルテットで幕開け
冒頭で日系文化センター・博物館理事長の五明明子さんが、「亡くなった母が、カレンさんのお母さまと知り合い、“あなたと同じ苗字の人がいる”と教えてくれました。そこからお付き合いが始まり、日系カナダ人であるカレンさんが、日系センターのお役に立ちたいと支援を申し出てくれたのです」と、コンサート開催に至るいきさつを述べた。
続いて司会のテツロウ重松さんが、バンクーバー音楽院で学ぶシニア・メンバーで構成されたコルデン・カルテットを紹介した。
優雅な『アヴェ・マリア』、軽やかな『ユーモレスク』、タンゴのリズムが軽快な『ポル・ウナ・カベーサ』など、誰もが聴き覚えのある小曲メドレーで室内楽の楽しさを伝えた。
感動と衝撃
観客目線に合わせた特設ステージに現れたカレン五明さんとピアノ伴奏の飯沼千温さん。哀愁に満ちた出だしで始まるメンデルスゾーンの『ヴァイオリン協奏曲ホ短調』がスタートしたとたんに、誰もが釘付けになった。
情感豊かな演奏と、何かを訴え、ときにはむせび泣くようなヴァイオリンの音色。第1楽章から第3楽章まで途切れることのない力強いメッセージ。衝撃に身震いしながら、言葉にできないほどの感動に包まれた。
割れるような拍手とスタンディング・オベーションに続き、アンコールでは『タイスの瞑想曲』で、甘美な曲想をしっとりと奏でた。
素顔のトーク
重松さんとの談話では「私はベビーのときからハミングしていたそうです。5歳のころ、母に連れられて五嶋みどりの演奏を聴いて感化され、弾いてみたいと思いました」と音楽との出会いを語った。
カレンさんが使用しているのは、1703年ストラディヴァリウス『オーロラ、エクス・フーリス』。イタリアの天才職人ストラディヴァリが1100台作ったなかで約600挺が現存し、その多くは数億円以上の値で取引されている。
「NHKの特集番組でイタリアのクレモナを訪れ、ストラディバリが木材を選んだと思われる森の中に行き“寒いけどハッピーじゃない?”と、オーロラを木々と対話させました。300歳以上の、このヴァイオリンとは16年間つき合っているので“今日は風邪気味? 早く元に戻ってね”なんて毎日コミュニケートしています」
「私はソリストになるため忍耐強く毎日練習してきましたが、どんなレベルでも音楽を続けることが大切と思います。演奏する楽しみはギフトです」など、親しみある受け答えが好評だった。
存在感のある演奏
「若手ミュージシャンのカルテットも含め、最初から最後まで、とても楽しむことができました」「低いステージから平面に音が聴けて、改めて素晴らしいヴァイオリニストだと認識しました」「ホールの状態に左右されることなく、あれだけの演奏ができるのは、さすがプロですね」など、しばらく話題は尽きなかった。
バンクーバー市内のハイスクール音楽科でヴァイオリン専攻のセガール真衣さん(17)は、「聴きなれているコンチェルトのはずなのに、カレン五明さんが弾き始めた瞬間から、今までになかった迫力と音色に圧巻されました。五明さんのように、ステージ上で存在感のある演奏者を目指したいと思います」と感想を寄せてくれた。
日系センターを代表して五明明子さんは「世界的な演奏家のカレンさんに支援していただき、本当に感謝しています。照明や空調がうまくいかず、残念で申し訳なく思っています。館内の装置改善は財政的にきびしいものですが、今後の課題として解決していかなければいけないと思っています」と話している。
(取材 ルイーズ阿久沢 / 撮影 那須則子)
カレン五明さん(左)とピアノ伴奏をした飯沼千温(ちはる)さん(右)
司会のテツロウ重松さんとの談話では親しみある受け答えが好評だった
素晴らしい演奏で聴衆を魅了したカレン五明さん