2017年5月4日 第18号
4月30日、バンクーバー日本語学校並びに日系会館で、JALTA(BC州日本語教育振興会)の主催による日本語教育講座が開かれた。第2回目の開催となる今回は、H.I.Sカナダ・インバウンド支店長の村武律さん、留学エージェントのオペレーションマネジャーの浜中都考さん、元グラッドストーン日本語学園保護者のサマーヴィル美保子さんが、日英バイリンガルの子供たちが、その語学力をどのように社会生活で生かしていけるかを中心に話をした。
参加者はゲストスピーカーの話に熱心に耳を傾けていた
◉バイリンガルであることの強み
会場には日本語を学ぶ子供、保護者、日本語教師など46人が訪れた。司会進行も務めたJALTA会長の馬目広三さんによる開会の挨拶の後、3人のゲストスピーカーがそれぞれ講演した。
1980年創業のH.I.Sは、いまや海外66カ国233拠点を持つグローバル企業で、格安航空券販売、パッケージ旅行、ホテル事業など多岐にわたる事業形態を展開している。バンクーバー支店のインバウンド支店長である村武さんは、H.I.Sでの採用条件として、仕事にコミットできる、日本語環境の職場に順応できる、他文化へのリスペクトがある、寛容であるという点を重視しているという。言葉は文化への入り口であると考える村武さんは、日英に限らず多言語を習得している人には、他文化を受け入れる柔軟な心が育つのではないかと語る。H.I.Sでは日本語が話せるかどうかが採用に関わるということはないということだ。ただ、仕事に生かすことができるほどの日本語能力を得るためには、家庭内での学習だけでは限界があり、日本語学校などで系統だてて学ぶことが重要であろうと述べた。
ウェストコースト・インターナショナルでオペレーションマネジャーとして働く浜中さんは、バンクーバー・ホワイトキャップスに昨年在籍した工藤壮人選手の通訳も務めた。バーナビー日本語学校で週1回2時間の授業を受け、13歳で日本語能力試験のN1に合格して日本語学校は卒業。その後数年、同校のサマーキャンプでボランティアとして参加していた。ブリティッシュ・コロンビア大学在学中に交換留学生として筑波大学で勉強した際には、日本人学生と同じ授業を受けることができたという。自身の日本語能力に関しては、日本から移住した両親のもと、家庭内では日本語のみという環境も大きく影響しているが、日本語学校で勉強したことで特に上達したと感じているそうだ。日英バイリンガルであることが、現在の仕事などに生かされていると実感していると話した。
◉日本語を維持する意義
グラッドストーン日本語学園に通った2人のお子さんを持つサマーヴィルさん。長女は現在、JETプログラムのコーディネーターとして活躍、長男は日本語能力試験N1 や漢字検定5級を取得している。サマーヴィルさんがカナダに住み始めた頃、日系1世の人と接する機会があり、「カナダで生まれた子供たちが英語しか話せないので、親子で会話ができない」と聞かされた。当時はその話の重みをそれほど感じていなかったが、実際に自分が子供を持ってみると日本語の維持の難しさを実感したという。振り返ってみると、長年にわたり日本語学校に通い続けたことが日本語の維持に大きく寄与していると感じている。また、日本語学校の先生たちのサポートや、同級生と良い関係を築けたことも継続できた理由の一つであるかもしれないと語った。
質疑応答では、日本語学習を続けさせる秘訣や、モチベーションをどのように保つかなど、さまざまな質問が寄せられた。笑いを誘うエピソードや、参考になるポイントなどがちりばめられた講演に参加者は安心させられたり、力づけられたりしていた様子だった。
(取材 大島 多紀子)
村武律さん
浜中都考さん(左)、サマーヴィル美保子さん