心に優しく響くドラムと共に、スコーミッシュ・ネーションのサム・ジョージ氏によるグランドファーザーの祝福から始まった開会式。そんな心地良い歌に聞き入る観衆、そして首を上下にリズムを取る姿が見られた伊藤秀樹在バンクーバー日本国総領事は、「35周年記念を迎えることができ、おめでとうございます。」と始めた。「パウエル祭協会会長のニーナ・稲岡・リーさん、ボランティアの方々の献身的な努力があってのイベントです。」と讃え、開会式のゲストたちにも感謝の意を表した。そして、「東日本大震災が起きてから4ヶ月以上になります。未だに9万人の方々が自分の郷里に戻ることさえ出来ない状況です。東北の被災地の復興は簡単にはいきませんが、日本は急速に復興して行っています。カナダ、そして国際コミュニティの団結力を更なるものにして、サポートして行くことを誓います。」と被災者への敬意を表した。また、環境に優しい祭りを目指すパウエル祭の「Zero Waste」を推奨するグレガー・ロバートソン・バンクーバー市長は、「会場には山からの新鮮な水があるので、ペットボトルは使わないで!ゴミを残さないでイベントを楽しもう!」とし、「大震災に見舞われた日本を、今後も最大限にサポートして行きたい。」と誓い、「ありがとう」と日本語で締めた。


浴衣や甚平姿も多く見られたパウエル祭は、BC州で最も長く続いているイベントだ。長い歴史を抱えるからこそ見られる次世代へのつながりは、幼い頃に親に連れられて来た人々が、今では自分が親となり子供を連れてくる、そんな日本文化の継承の場でもある。恒例の催しも多々ある中、日曜日に行われた相撲トーナメント「バンクーバー新報・五明杯」では、炎天下にも負けず大勢の観衆が集まり、拍手喝采の中スタート。今年は2人の女性も参加し、観衆から「それ行け!もう1回!」などと歓声が飛び散り更なる盛り上がりを見せた。そして、誰もが注目した去年の優勝者テツ・マツモトさんが、皆の予想通りに今年も勝利を手にした。父親が第一回大会の優勝者だというマツモトさんは、高校時代から相撲大会に出場し、優勝した回数が分からないほど何回も勝利を手にしている横綱の中の横綱だ。


今年も目立った「Zero Waste」チャレンジ・プロジェクトの徹底さ。設置された「Zero Waste」場では、ボランティアの方々がコンポストの説明をする中、誰もがリサイクルに気を使い、ゴミのないお祭りにしようと心がけている姿が多く見られた。また、去年大好評だった無料の「自転車バレーサービス」の利用者の中には、暑さにも負けず、親子で自転車に乗って来たという方々が後を絶えなかった。また、今年も手作りの和風カードや浴衣、お洒落なバービー人形の着物のお洋服など様々なクラフトに目移り。「生地は全て日本からまとめて買って来ています。2年前に独学で裁縫を学び、趣味で始めたクラフトも今ではオンラインで売るまでになりました。全て自宅で作っているんですよ。」と笑顔で話すエミ・ヴァーガさん。また、涼しげな手作り草履のブースでは、「母と友人が作りました。」と話す浴衣姿の素敵なミカ・ナガイさん。着物や半被、風呂敷きや帯を用いた草履のベースは、なんとリサイクルの洋服やガレージセールのもの。知恵や工夫から素敵なものを作り上げるアーティストたちの豊富なクラフトに人々が賑わっていた。


日系以外の人々も多く足を運ぶパウエル祭。わざわざラングレーから来たというジェシカさんは、「汗だくになりながら、焼きそばの大行列に並びました。日本食が好きで日本文化に興味を持ち始め、今は日本マニアよ。」と笑顔で語り、「ジェットプログラムで埼玉にいたのですが、パウエル祭に来たら、日本に戻った気分になれます。」と付け足した。多様な文化的側面を提供するパウエル祭では、日系人だけではなくカナダ人との触れ合いの場、そして、日系コミュニティへの理解が深まる場でもある。今では、しっかりと敷かれたレールの上にいる自分だが、そのレールがどのような敷かれ方をし、日系人がどのような思い込めて敷かれたのかを深く考えながら、今年も大盛況の中、幕を閉じたパウエル祭を後にした。


<相撲トーナメント「バンクーバー新報・五明杯」の結果>
優勝:テツ・マツモトさん
準優勝:ガイ・キタガワさん

(取材 門利容子)

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これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。