2016年10月27日 第44号
どっしりとした存在感を放つ八角形のサイドボードキャビネット、不思議な落ち着きを醸し出すスタンドライト——。バンクーバーのデザイン家具店Kozai Modern(1155 West 6th Avenue, Vancouver)で開催中の個展「ニュー・アングルズ」(12月末まで)。桑原誠司さんの洗練されたデザインが、見る者の想像を静かにかき立てる。
美しい光のあるところに人は集まる(撮影 桑原誠司さん)
◆コザイ・モダンとのコラボ13年
10月15日の個展のオープニングレセプションでは、イン・エレメント・デザインズのデザイナーであり家具職人の桑原誠司さんとパートナーの日満里さんが作品を紹介。来場者のメルビンさんは「木のぬくもりが感じられますね。美しい造形に魅せられ、触発されます」と感想を。会場にはスタイリッシュなデザインと、何代も使い続けられる堅牢さを兼ね備えた家具が並ぶ。その上質感とセンスの良さが、デザイン家具を揃えるコザイ・モダンを訪れる人の心を捉え続け、今年で13年目となる。
◆アングルから生まれるもの
「アングル(角度)」の発想はどこから生まれたのか。朝にアイディア出しをするのが日課の誠司さんは言う。「過去に書いたノートの中に、当たり前ではない形、三角形、五角形…と書いてあって、それらの構造と機能、デザインを熟考しました」。ただの直角でなく、角度を付けることで物の厚みが変化して見える。そしてデザインにキレが生まれることを見いだした。「思えば子供の頃、スーパーカーや特急電車、ロボットアニメのガンダムなどを見て、エッジのきいたシャープなデザインに夢中になっていました」。そして生まれた八角形のキャビネットは、重厚な印象でありながらも、扉の開閉を想像するだけで、何か楽しいことが起きるような気持ちが湧いてくる。
◆創造的な家具を超えた家具
代表作の一つ「アイビーチェア」は、壁にもたれかかることによって安定する椅子。ある日、斬新な椅子のアイディアを求めて壁を眺めていたところ「壁にもたれれば、足が一本でも安定するのでは」と思いついた。「学生の頃、体力作りのために、膝を曲げて腰を落とし、背中を壁に付けた姿勢でトレーニングをさせられていました。それと同じ形です」。座るという普通の行為も、この椅子に座ると非日常な体験に思える。
数年前から工房を郊外に移し、四季を、自然を肌で感じながら創作活動を続けている。「森の生活では蜘蛛が織りなす多角形など、街中では気付かないことがたくさんあります」。人を幸せにするデザイン家具は、そうした自然の恩恵を受けて生まれている。
◆In Element Designs
桑原誠司(くわばら・せいじ)さん
2003年、手作り家具の会社「イン・エレメント・デザインズ」を創業。特注、定番を問わず、家具全般の製作を手がけ、海外の展示会への出品も経験。家具のデザインを通して世界とつながりが生まれている。
(取材 平野 香利)
KOZAI MODERN
1515 West 6th Avenue, Vancouver
604-677-8166
In Element Designs
604-253-1177
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www.inelement.ca
デザイナー桑原誠司さん(写真左)と妻の日満里さん(右)の二人三脚で
ソリッドな材質で長持ちする物を
直角と違い各パーツを合わせ作業は高度な技術を要する。どれも渾身の作品だ