2016年10月6日 第41号
10月4日、バンクーバー市内のVSO(バンクーバー交響楽団)音楽院で、VSO終身名誉コンサートマスターの長井明さんらが作るアンサンブル・パシフィック・ノースが『室内楽の夕べ』と題したコンサートを開催した。 札幌を拠点に20年間演奏活動をする同グループがバンクーバーで演奏するのは初めて。弦とピアノの見事な重奏で、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事と夫君の知明氏ほか約80人の聴衆を魅了した。
アンコールではマイケル・コンウェイ・ベイカー氏作曲の『天使の祈り』を情緒豊かに演奏した
語り合う楽器
長井明さんが作曲家や曲紹介をしながら進めたコンサートの幕開けは『ヴァイオリンとヴィオラのための2重奏曲第1番』(モーツアルト作曲)。2つの楽器が追いかけあい語り合う作品を長井明・せり夫妻が息の合った演奏で軽やかに表現した。
『ヴァイオリンソナタ・スケルツォ』(ブラームス作曲)ではヴァイオリン(長井明)とピアノ(紅林さやか)が情熱的にからみあい、『悲哀 オーベルマンの谷(ピアノトリオ編)』(リスト作曲)ではピアノ(紅林さやか)、ヴァイオリン(長井明)、チェロ(ルーク・キム)が時には激しく語り合った。
息の合った演奏
1996年、せりさん(ヴァイオリン・ヴィオラ)、ゆりかさん(ピアノ)、頼子さん(チェロ)の3姉妹からなる『兵藤ピアノトリオ』に長井明さんが加わりピアノカルテット『アンサンブル・パシフィック・ノース』が誕生。2003年にゆりかさんの娘のさやかさん(ピアノ)、2012年に頼子さんの娘の唯さん(チェロ)が加わり、現在6人のユニットとして長井さん夫妻の訪日に合わせて公演している。
バンクーバーでは齋藤頼子さん・唯さん親子の代わりにVSO新鋭チェリストのルーク・キムさんが参加。
「『幻想的ピアノ4重奏曲』(ブリッジ作曲)では音量やタイミングが難しいのですが、目と目で合図しあい、いい演奏ができました」と長井せりさん。長井明さんも「若いルークの感性が加わり、アンサンブルを引き締めてくれました」と感想を述べた。
感激の涙も
アンコールではバンクーバー在住マイケル・コンウェイ・ベイカー氏作曲の『天使の祈り』を情緒豊かに演奏した。 「素晴らしい演奏で涙が出ました」とヴァイオリン生徒の八重澤亜有美さん(17)。妹の水希さん(13)は「明先生の演奏に恋してます」と感激でいっぱいの様子だった。
弦とピアノの音色が美しく響き渡り、各楽器が表現力豊かに会話し合う。室内楽の醍醐味をたっぷりと楽しめた夕べだった。
(取材 ルイーズ阿久沢)
札幌から参加したせりさんの妹の紅林ゆりかさんと娘のさやかさんによる『アンダンテ・アレグロ・ブリランテ(ピアノ連弾)』(メンデルスゾーン作曲)。鍵盤の上を4つの手がすべるように動いた
アンサンブル・パシフィック・ノースのメンバーとVSOチェロ奏者のルーク・キムさん。(左から)紅林ゆりかさん(ピアノ)、長井せりさん(ヴィオラ)、ルーク・キムさん(チェロ)、紅林さやかさん(ピアノ)、長井明さん(ヴァイオリン)