2016年8月25日 第35号
8月18日、日系カナダ人コミュニティの歴史を保存してきたブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で、カナダに住む日本人にとって重大な発表会が行われた。BC州政府が100年以上の歴史を持つ日系カナダ人たちに関わりの深い場所を『遺産』として認識し、これを保存するというプロジェクトである。公式には7月に発表となったプロジェクトだが、今回はその『日系歴史遺産』がどのように選ばれ、残されていくかの説明会となった。
挨拶するナオミ・ヤマモト緊急事態対応担当大臣
このプロジェクトは州政府の異文化顧問委員会と日系文化センター・博物館の合同で進められるプロジェクトであり、日系初の大臣、ブリティッシュ・コロンビア州議員ノースバンクーバー・ロンズデール選挙区選出、ナオミ・ヤマモト緊急事態対応担当大臣の支持も得ている。このプロジェクトの最大の特徴は、『史跡候補』は州政府によって選ばれるのではなく、一般の人々の推薦によって選出されることである。つまり、日系カナダ人が自分たちにとって思い出や深い関わりのある場所を州政府に推薦し、それをもとに州政府が調査を行い、十分な関わりや思い入れのある場所と認められれば、『遺産』と認定されるのである。通常、文化遺産や世界遺産などでは専門の委員会によって候補が選ばれ、吟味されて認定されるのだが、このプロジェクトでは、自分たちで思い入れや歴史のある場所を候補として挙げることができるのである。この国の日系人の歴史は長く、幸せな思い出も悲しい思い出もたくさんあり、それが刻まれている場所を自分たちで選んでほしいとの政府の考えである。
説明会はまずヤマモト大臣の挨拶から始まった。ヤマモト大臣は日系三世であり、バンクーバー生まれでもある。彼女は一人の日系人として、このプロジェクトの発起に対して喜びを表し、またカナダを代々故郷としてきた日系カナダ人としての全面的な支持の意を示した。続いて日系国立博物館館長シェリー・カジワラ氏から、具体的な『遺産』候補の応募方法の説明があった。『遺産』候補は一般による推薦によって挙げられる。『日系歴史遺産』の候補として認められるものは建造物、建物、近隣地区、地域や風景等、BC州内のどのような場所であれ、応募可能である。個人やコミュニティ団体、教育機関、市町村などの地方自治体、先住民を含む誰でも応募は可能であり、歴史の専門家である必要はないとのこと。その場所が歴史的なものであり、遺産としての価値があり、住民とコミュニティにとってどのように大切であるかが重要であると強調された。応募方法はインターネット上の推薦状を記入し、オンラインで送る方式である。現段階では9月9日が締め切りとなっているが、説明会に参加していた人々からの意見により締め切り期日の延期が検討される。
「9月9日では期間が短かすぎる」という声も多々あり、日系カナダ人のプロジェクトに対する想いが強く伝わった。日本人コミュニティが栄えていた戦前の楽しい思い出も、戦時中の悲しい思い出も、後世に残し、日系カナダ人コミュニティの未来につなげていく、これはそんなプロジェクトである。このプロジェクトは日系カナダ人では立ち上げることは不可能だったかもしれない。それは多文化を大事にするカナダ政府の協力があって、初めて実現可能になったのかもしれない。
(取材 榊原 理人)
応募方法を説明するシェリー・カジワラ館長