映画 “北辰斜にさすところ”戦後60有余年、世界に例を見ない高度成長を成し遂げた日本においては、有り余るほどの「物の豊かさ」を享受するようになりました。
人との繋がりが、多くの方法で密接になったように思えますが、反面とても希薄に感じられる事件や、現象が多く見うけられます。漠然とした現代への危機感が、映画製作に携わる原動力となりました。


今、真に求められているのは、先達たちが、営々と築き上げてきた歴史や文化を大切にしながら、現代の叡智を駆使し、一人一人の命が大切にされる「心豊かな社会の」の実現に他ありません。
そのためには、今を生きる私たちが、未来への懸け橋となって、時代を担う若者たちに語り伝えなければならない「高き志」「熱き想い」があるはずです。

物語は戦前の第七高等学校造士館(鹿児島県)と第五高等学校(熊本県)の野球対抗戦「現在も鹿児島大学と熊本大学の対抗戦として、継続されています」をはじめとする青春群像を横糸に、その時代背景を映す教育を縦糸に描かれています。脚本を手掛けていただいた室積氏は、多くの七高の方々に蜜着取材をし、時代に風化されることのない当時の教育の在り様を、書き込んで頂けました。
若者が、全身全霊で国を良くしようとの気概を持って学ぶ姿、善き師との邂逅、友達とともに過ごすスポーツや寮生活。だれの責任だと声高に怨むことなくこともなく、戦争を受け入れがたく思いつつも日本の将来や次の世代のためにと戦地に赴き帰ることのなかった者や、好きな野球を続けることもできず、心を許しあった親友との時間も持てず死んでいった者の姿。その方々への思いを胸に今を生きる主人公を通して、非条理な時代であっても、何より前向きなきらきらとした生き様の青春群像が描かれています。輝きに満ち満ちた時間は、祖父から孫へと継承されていきます。

映画 “北辰斜にさすところ”この映画には、メガホンをとって頂いた神山征二郎監督のおかげで三國連太郎さんはじめ、素晴らしい俳優の方々が出演して下さいました。
2007年12月に上映を開始し、映画館だけでなく学校や学士会館等で見ていただく機会を得ました。
映画作りの人のご縁からアメリカ・ブラジル、ブルガリア、フランスでの海外上映にもつながりました。
「一人でも多くの方々に見ていただきたい。
そして、映画のワンシーン・ひとつの言葉に巡り会っていただきたい。」
観客の皆様に、心にとどめて頂くことが出来たら、皆様の口の端に上ることがあれば、皆様の想いとともに未来へお伝えいただければ、これにすぐる喜びはありません。
出演者の皆様、製作スタッフ、メセナとなっていただいた1500名に及ぶ方々、ボランティアで参加くださった製作委員会の仲間たち総べての願いであり、喜びです。
「未来への祈りにも似て・・伝えたい志がある。残したい想いがある。」
国境を越え言葉を超えて、今後もこの映画とともに精進してまいりたいと存じます。

この度「北辰斜にさすところ」の上映をカナダでさせて頂けることは、この映画にとっても、この上ない喜びです。
2年前にカナダを旅行する機会がございましたが、それ以来もう一度お訪ねしたいと願っておりました。その憧れの地・カナダでの上映も、本当に有難いご縁を頂き開催して頂けます事感謝申し上げます。

今回も、日本の古典芸能である「講談」を未来に語り継いでいきたいと、志を同じくする講談師太平洋さんの口演を映画の上映前にさせていただきます。
是非、会場にてご堪能いただければと存じます。

会場で皆様にお会いできます事を、又皆様と語り合える機会を頂けます事、心から喜びとしカナダへ参ります。ありがとう存じます。

 

「北辰斜にさすところ」製作委員会 プロデューサー 鈴木 トシ子

 

映画の題名について:
「北辰斜にさすところ」は、第七高等学校造士館の大正3年に作られた寮歌の歌詞に由来しています。「北辰」とは北極星のことであり九州鹿児島からは、北方仰角31・36度に仰ぎ見ることができます。
旧制高校は現在の大学にあたる教育機関であり、明治政府が社会のリーダーを育成するために作った学校制度であります。昭和25年に学制改革により幕を閉じます。
厳しい受験戦争によって選抜され、入学がかなうのが同世代の1%にも満たなかった、が帝国大学へほぼ全員が入学することが出来、受験のためでないあらゆる功利性から解放された、純粋に勉学に励むことが出来た3年間であった。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。