「顧客の満足度を上げるために、日本式のサービスをカナダに移植で きないか」—ニッサン・カナダからの要請のもと、東京日産自動車販売が子会社・リッチモンド日産をオープンしたのは1987年。東京を販売圏とする社員た ちに海外という夢を与える意味もあったという。その夢を実現し、きめ細やかなサービスとスタッフのチームワークで顧客の信頼を得てきた同社に、今年4月よ り堀江達哉氏が社長に就任した。 モータリゼーションの流れのなかで自動車業界を意識 日本に高速道路が次々に整備され、自動車レースも盛んになってきた時代のなかで成長した堀江氏にとって、地元・東京資本の自動車会社への就職希望は自然 な流れだった。しかし自動車メーカーで予想される熾烈な出世競争は避けて、東京日産自動社販売に入社。営業職で経験を積み、1994年にリッチモンド日産 に赴任。ここで4年間の取締役を経験した後、各所で勤務し、今回は2度目の海外赴任となる。 社長就任に当たって、堀江氏は社員一人一人とフランクなインタビューを行った。「直接話せる位置にいるんだと認識してもらいたい」との思いからだ。「よ く『いつも答えは現場にある』と言われるように、多くの場合では問題も解答も現場にあるものだと思います。いつも社員一人一人と気軽に話せる環境があるこ とで、問題はもちろん、彼らの考える解決策をも遠慮せずに耳に入れてくれるようならばいいなと。こうした雰囲気を今まで以上に高めていけたらと思います」 日産車のトレンド・環境と女性 最近10年での日産車のトレンドの一つは「環境に配慮した車作り」。排ガス量が少なく、燃費の良い日本車は「今後ますます社会的なニーズに応えていけま すから、ここに我が社の存在意義がありますし、それをお客様にもご提案していきたい」と堀江氏。もう一つのトレンドは「女性の要望を意識した車作り」。車 庫入れを容易にする後部の広い視界の確保、子供を乗せたときの安全性強化、女性に好まれる内外のデザイン、便利な小物の収納、等々。こうした日本車のライ ンナップを、カナダにも徐々に取り込んでいく意向だ。 個人的な目標は自立 大学卒業までずっと親元で育ち、就職の翌年には結婚した堀江氏。これまでは両親あるいは妻からの支えをいつも受けて生活してきた氏だが、この度の海外勤 務は初の単身赴任となった。「この歳になってお恥ずかしいですが、目標は自立ですね」。初めての自炊で食料品の買い物一つ取っても新鮮なことばかり。卵の 黄身の色が薄いことを妻に携帯電話で報告すると「あなた知らなかったの?」。それで普通と知って一安心。
リッチモンド日産社長 堀江達哉氏
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長身でがっちりした体格の氏だが威圧感がないのは、肩肘張らぬ人懐っこい性格のせいだろう。仕事ではトップダウンで物事が進んでいくことよりも社員一人 一人が機動性を持って動いていることを大事と考える。そうした柔軟な姿勢が豊かな表情に表れているようだ。 (取材 平野香利)
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