私たち海外各地および在日の日系人代表・有志は、2015(平成27)年10月27日〜29日の3日間にわたり、東京で開催した第56回海外日系人大会で、『戦後70年―日本の歩みと海外日系人』を総合テーマとし、全体会議および三つの分科会(①戦後70年の日本と日系社会、②日本の企業進出と日系社会、③戦後70年の学びと世界への提言)において熱心に討議しました。その結果、次の7項目の決議を採択したことを大会の成果として宣言いたします。
1・戦後70年の経験を踏まえ、より一層日本との架け橋となると同時に海外日系人が戦後培った遺産の継承につとめます
私たち海外日系人は、第2次世界大戦中、日本と在住国との間の様々な軋轢の中で極めて厳しい状況に置かれ、苦しい時代を経験しました。しかし戦後一人ひとりが努力を積み重ね、今日ではそれぞれの国の国民として確固たる地位を築いています。終戦直後、深刻な食糧・物資不足に見舞われた日本に対するLARA*(アジア救援公認団体)の救援活動には、多くの海外日系人が参加しましたが、その気持ちに日本が感謝するしるしとして開催した集まりが海外日系人大会であり、今日まで毎年続いて開かれているものです。
戦後70年の今年、私たちは過去の歴史を振り返り、次世代へと歴史をつないでいくことの大切さを、改めて痛感しています。一例がインドネシアで、一世はすべて他界しましたが、残留日本兵が創設した福祉互助会を二世が引き継ぎ、日本語学校や自閉症児のための学校運営を続けています。その一方で、戦争の終結とともに親子が別れ別れとなり日本人であることの証明書類を喪失し、今なお就籍を求め苦しんでいる事例がフィリピンにはみられます。また、日本政府による被爆者健診が実施されてはいますが、広島、長崎で被爆された一世、二世の海外在住者が1000人を超える事実も忘れることはできません。
戦後70年の経験を踏まえ、私たちはこれからも、「平和国家」として歩んできた日本と社会・経済・文化など様々な分野で「絆」を大切にし、在住国と日本との架け橋となり関係強化に努めていきます。それと同時に、戦後、海外日系人の先人が作り上げてきた有形・無形の遺産の継承の重要性を訴えます。
2・日本文化、日本語の継承・発信に努める日系団体の活動に理解と支援を望みます
各国で開催されている「日本祭」は、地域市民を巻き込み、日系人以外も参加する行事に発展しています。日系人団体が主催する行事が地域の祭りとして定着し、日本文化の普及に繋がっていることを理解し、日本社会とりわけ政府の理解と支援を望みます。
日系社会では日本語の初等、中等教育に力を入れてきましたが、最近では高等教育に取り組んでいるところも出て来ています。フィリピンでは、日系の「ミンダナオ国際大学」が設立され、ブラジルでは2016年度からは総合大学の協力を得て「日本語教師養成コース」を開設する計画が上っています。日本の国際戦略にとり、日本語の普及・国際化は欠かせません。この分野の日系人の活躍に日本政府の支援と連携を望みます。
3・日本企業の海外進出増勢に当たり経営の現地化とともに、重要なパートナーとして日系社会との連携を期待します
日本企業の国際化が一段と進んでいる状況ですが、進出先に定着し経営の安定化を図るには現地化が不可欠であると考えます。
日系人の在住国の大部分は、多くの民族で構成されています。中でも長い移住の歴史がある国では、日系人は国家と国民から信頼と信用を得ていると自負しています。多民族社会における競争と共存の智恵を身に付けているのが、私たちの強みです。日本で就労・勉学の経験を積んだ人材も輩出しています。日系人のこうした潜在力を評価し、ビジネス・パートナーとして連携されるよう期待します。
4・日系ユースは、戦後70年の歴史から学び、新たな国際秩序の創造に貢献します
日本は戦後70年、「平和主義」を掲げて豊かな経済国家を実現することが可能であることを証明しました。世界の模範となる日本の「平和主義」を、私たち日系ユースは日系人のネットワークを通じて伝え、共有していきたいと思っています。
日系ユースは、日本と隣国との間で不信や怨恨が今なお存在していることを認識しています。その対立の解消に向け、それぞれの当事者が満足できる解決策を見つけるよう誠意を持って努力し続けることを、日系ユースは期待しています。
さらに日系ユースは、市民レベルで日本の隣国の人たちに対し尊重と連帯感、寛容性を持って交流することを約束し、市民間の信用と相互理解を促進します。
5・日系社会の高齢化に対する認識と関心を高める必要性を訴えます
在外および在日の日系社会は、日本社会と同様に高齢化の現象に直面し始めています。この点を認識し、在住国における日系社会の相互扶助の在り方を検討するとともに、日系人が在住する他の国々および日本との経験を分かち合うことで対処すべく関心を高めていく必要性を訴えます。
6・重国籍を認めるよう日本政府に求めます。また重国籍者への「ジャパンレールパス」の発行をJRグループに求めます
日本の国籍法が定める「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」との日本国籍喪失規定は、海外で活躍する日本人の活動の妨げになっています。また、国籍選択制度は、海外で生まれ育った日本人の子供にとって、「日本人」としての尊厳・幸福追求権を侵害するものとなっているケースが少なくありません。重国籍者に対しては、出生国の国籍を保持したままでも、日本国民として認めるよう重国籍の道を開くことを政府に求めます。
また、日本のJRグループが海外で発行する「ジャパンレールパス」の運用に当たって、日本をより良く知りたいと希望する、日系二世の重国籍者への発行要望に理解を求めます。
7・在外選挙権制度の簡素化を提案します
本年6月に改正公職選挙法が成立し、選挙年齢が18歳以上に引き下げられました。在外選挙が実施されて15年が経過しましたが、これを機に、4年前の大会宣言でも提起した、①海外移住の際に市(区)役所で選挙人の自動登録をする、②投票通知を選挙人登録者に自動配布(郵送)する、③在外公館でのFAX投票や簡便な電子投票を導入する―などの改善を引き続き要望します。
以上
* LARA (Licensed Agencies for Relief in Asia:アジア救援公認団体)
=米国内の社会事業・宗教・労働団体など13団体で組織されたアジア生活困窮者救済団体。
公益財団法人 海外日系人協会