〜ヨーロッパの風景写真を浮世絵風に〜

モントリオール市内のモントリオール・アート・センターで9月5日から11日まで開催された「グローバル・アート・リーグ 2015作品展」。数多くの応募作品から選ばれたのは20点。その一つにバンクーバー在住の写真家・今泉慶子さんの作品があった。作風、素材ともオリジナリティあふれる今泉さんの作品に来場者の関心が集まった。

 

今泉さんと入選した作品

 

西洋の素材を和風に表現し、伝統の素材と現代技術を生かして

 グローバル・アート・リーグは視覚芸術分野でのアーティスト発掘を目的としたカナダの組織だが、カナダ以外にもアメリカ、ロシア、ブラジル、南アフリカ、オーストラリアなど世界中からアーティストがアクセスしている。

 今回入選した今泉さんの作品『サン・マルコ』はベネチアのサン・ジョルジオ・マッジョーレ寺院の前を流れる運河に停泊するゴンドラ(舟)を撮影した作品。写真であるが、コンピューター技術を用いて輪郭のはっきりした浮世絵風の水彩画のように仕上げている。特筆すべきは素材。印刷には和紙を用いて特殊軽金属で裏打ちし、そのうえUVカットスプレーを数層にわたり塗布。こうした加工により、80年以上も色味や風合いが保てるという。

 浮世絵風に仕上げ、和紙を用いる発想は「ポートレート(肖像写真)撮影の経験から生まれました」と今泉さん。肖像画を飾るのがポピュラーな欧米の家庭で、肖像画用の額にポートレートを収めようとすると、写真が額よりも強く勝ってしまいがち。そこで「もっとソフトなタッチを出せたら」と探る中で和紙の使用を思いついた。「それならば作風にも日本独特の手法を生かしてはどうか」と考えついたのが浮世絵風の仕上げだった。

 9月5日のレセプションでは、来場者から作品の手法について質問が集中。軽量アルミ複合材に貼り付け、UV加工が施された本作品は表面に触れることもできると紹介すると、来場者は和紙の手触りも楽しんでいった。 

来月銀座で個展を開催

 今泉さんは昨年に続き、10月に銀座のギャラリーで個展『たてがみの詩』を開催する(10月20〜26日、東京都中央区銀座7-8-1 彩波画廊にて)。パソコンでさっと見るにとどまりがちな画像があふれる時代の中で、「実際に会場で作品と対峙し会話をしていただけるような表現の場を」と企画したという。被写体となったのは南仏の湿原に生息する白馬。「野生の馬の強くたくましい姿や仔馬に対する母馬の優しい表情、たてがみを濡らして浜辺を走る姿に魅了されました」。ゴム長靴をはき、湿原に入っての撮影では、夢中でシャッターを切る中、ぬかるみに足を取られ、尻もちをついたことも。「そんな時もカメラだけは伸ばした手で大事に守っていて」と苦笑する。そうしてカメラを抱える今泉さんの頭の中には「自然がふと見せてくれる情景を逃さずすくい取って、記録に収めたい」という思いがつねにあるという。そして「絶えず自然への畏怖の念とともに感謝を忘れず、自分の感性を磨いていること」が、そうした自然の表情との出会いにつながるのではないかと感じている。

 これからの作品に対する取り組み方を尋ねると、「最近は自分が日本人であることを強く意識していますね。日本伝統技法や伝統工芸の素晴らしさを生かし、新たに先端技術を使って、異なる被写体で試したらどうなるかを今後も模索していくつもりです。写真から新しい媒体を生み出せたらと、その可能性を日々追求していきたいと思います」と、力強く回答する今泉さんの姿に白馬のイメージが重なって見えた。

(取材 平野香利)

 

Montreal Art Centre 会場の一部

 

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