なでしこジャパン準優勝!!

 

ここまで、苦しみながらも1点差でなんとか勝ち上がってきたなでしこ。その辛勝を支えてきたのが、なでしこが誇る鉄壁のディフェンス陣だった。そのディフェンスが機能しなかった。 4年前にPK戦でしか決着がつかなかった頂上決戦の再現は、アメリカのために用意された舞台だった。

 

キャプテン宮間。ブロンズボールを受賞した

 

7月5日 決勝(BCプレース:53,341)
     日本 2ー5 アメリカ

全てはこの瞬間のために

  アメリカの、アメリカによる、アメリカのためのゲームだった。こんな展開を誰が想像しただろう。「最初の15分がああなるとは予想していなかった」と宮間。なでしこだけではない、観客も、ファンも、メディアも、アメリカさえも予想できなかった、「誰か私をつねって、起こしてくれないか」という心境だったとエリス監督が会見で言ったほど、想像を超えた展開だった。

 前半16分で0ー4。会場を埋め尽くしたアメリカファンの先取点の“U・S・A”コールが鳴りやまないまま、4点続けてコールがこだました。  アメリカがこの一戦にかける思いの強さは、2日前の記者会見からひしひしと伝わっていた。前回大会はPK(ペナルティキック)戦で日本に負けた。優勝の香りをすぐそこに感じながら味わうことができなかった悔しさを「忘れたことはない」とFW(フォワード)ワンバックは言い切った。

 ここまで両チームとも、圧倒的な強さを見せて勝ち上がってきたわけではない。準決勝も、どちらに転んでもおかしくない試合をなんとか乗り切って決勝まで進んだ。

 しかし決勝のアメリカは、この日のためにこれまでの全エネルギーを温存していたかのように、試合開始早々からエンジン全開で、なでしこに襲いかかった。「試合開始から強く出ていこうということはチーム内で言っていた」とエリス監督。セットプレーが見事に機能した立ち上がりに、日本は完敗した。

 「厳しい戦いになると思っている」というのは、両チームの試合前日での認識だった。2011年W杯、2012年ロンドン五輪、そして、2015年W杯。3回連続同じ顔合わせの決勝戦。佐々木監督は「なでしこはアメリカに大きくしてもらった」と感謝し、エリス監督は「日本は組織力のあるすばらしいチーム」と敬意を表した。何度も対戦し、お互いよく知っている相手。よきライバルであり、友人であるチームの3度目の対決は、アメリカが圧勝した。

 佐々木監督は、「選手は最後まであきらめずによく頑張った」と4点先取されてもあきらめなかった選手たちを労い、「今回は力の差を感じた」とアメリカを称賛した。この4年間のアメリカの成長を認め、「総体的に勝つ可能性は少なかった」と総括した。

 

「後半、ほんとに3点取るつもりで入った」

 前半でMF(ミッドフィルダー)澤と交代したDF(ディフェンダー)岩清水は、ベンチで泣き崩れた。開始早々のアメリカのセットプレーから4連続得点された日本のディフェンス陣の全責任を、自分が背負っているかのように体を折り曲げて泣いた。

 しかし開始16分で試合が決まりどこで壊れてもおかしくない逆境で、なでしこは強さを見せた。MF宇津木は、「失点も早かったし、崩されて失点したわけではなかったので、チームとしてはポジティブなハーフタイムを迎えられてました」と語った。「後半、ほんとに3点取るつもりで入ったんです」。

 圧勝ムードだったアメリカへの流れは、27分、FW大儀見のゴールで押し止めた。なでしこの反撃の烽火に見えた。ハーフタイムで、「終わった前半は仕方がない。後半は新たな試合だと思って臨もう」と佐々木監督が声をかけたと主将MF宮間。52分にDFジョンストンのOG(オウンゴール)で2ー4。まだ40分近く残っていた。誰もが反撃を期待した。

 しかしそれから2分後、またしてもコーナーキックからのセットプレーでゴールを許した。5点目は相当こたえたと、宇津木。日本の息の根を止めるゴールとなった。

 アメリカのベンチは狂喜していた。ワンバックは、「たとえどれだけアメリカがリードしても、日本は必ず諦めずに食らいついてくる」と前回大会での諦めないなでしこの強い精神力を称えていた。2点を返されて4年前の悪夢がチラついたかもしれない。5点目は点差以上に両チームにとって大きな1点となった。

 「タフで厳しい展開だったけど、よく戻した」と宮間。「最後まで頑張ったと思う」と、主将として胸を張った。 日本、

 

完全アウエー

 54000人が入ったBCプレースは、アメリカのホームと化した。会場はアメリカファンで埋め尽くされた。

 バンクーバーは、前日からアメリカに街を占領されたかのように星条旗が歩き回り、否応にも決勝戦への雰囲気は盛り上がっていた。

 決勝では“U・S・A”コールの嵐。日本はバンクーバーにいながら、完全アウエーの中、劣勢を戦い抜いた。

 ハットトリックを決めたキャプテンMFロイドは「完全にホームゲームだった」と試合後、笑った。

 

2人の名選手の最後に

 スタメンを外れたワンバックが79分にピッチに入った。チームメイトとタッチした後、澤にも手を差し出した。試合中、控え選手が交代する時に相手チームの選手とタッチする場面は珍しい。澤も笑顔でそれに応え、試合は再開した。

 お互いにこれが最後のW杯となる。澤は6大会連続W杯出場、1993年から日本代表として戦い、200試合出場も達成、2011年ドイツ大会では主将としてチームを優勝に導いた。一方、ワンバックは2001年に代表入り。エースとしてチームを引っ張り、大会前までの国際試合でのゴール数は183。名実ともに世界トップのフォワードとして、世界の女子サッカーをリードしてきた。

 その両選手の最後のW杯。ワンバックは澤について、「とても尊敬している」と語った。前回大会で、東日本大震災の後、キャプテンとしてチームを背負い、日本の期待を背負い、チームをまとめて世界一に導いた強さに、「敗戦チームとしてでも、彼女のことをすごく誇りに思うと彼女には伝えた」と明かした。

 W杯優勝は「どんな賞をもらっても、W杯で優勝しなければ意味がない」と言い切ったワンバックが唯一手にしていない勲章。それでも2011年の日本の優勝を喜んだ。ライバルとして戦ってきた澤の存在があったからだろう。

 お互い女子サッカー界でトップ選手として第一線で活躍してきた者同士にしか分からないタッチだったに違いない。ワンバックにタックルした澤がイエローカードをもらった時、ちょっと苦笑いを見せた。この2人のこんなシーンを見るのもこれが最後。この決勝で2人のプレーがバンクーバーで見られたのは幸せなことだった。

 「ほんとに悔いなくやりきったなって感じ」と澤。「準優勝で悔しい気持ちがないと言ったらうそになりますけど、こういういいチームの中でできたのはすごく嬉しいです」とゆっくり笑顔を作った。    

FWワンバックにアタックするMF澤。こんなシーンもこれが最後。このプレーで澤はイエローカードに

イエローカードにお互い笑顔を見せる澤とワンバック

1点を入れ、ガッツポーズを見せるFW大儀見。今大会これが2ゴール目。「ゴールに関しては物足りなさは感じた」と振り返った

アメリカのFKを前に指示を出すGK海堀(右から2番目)、右端は、MF澤が入りセンターバックに回ったMF阪口

アメリカのゴールネット前の攻防

今大会、フル回転したMF宇津木

ディフェンス陣の要として活躍したDF岩清水。この日はアメリカのゴールに責任を感じ泣き崩れた

試合後、選手たちを労う佐々木監督(中央)

握手する両チーム選手たち。泣き崩れるGK海堀を支えるアメリカGKソロ(右端)

3点目を入れられ、ぼう然とスクリーンのリプレーを見つめるなでしこ

大儀見の肩に顔を埋めて泣くGK海堀

ユニフォームで顔を覆って涙を隠すDF有吉。ディフェンス陣の涙が試合の残酷さを物語っていた

ハットトリックを決め喜ぶMFロイド(#10)。  ゴールデンボールを受賞

銀メダルを胸にさげながら、アメリカの表彰を見るなでしこ。最後まで涙が止まらなかったDF岩清水(左から2番目)

少数派のなでしこファン。それでも「ニッポン」の声援は会場に響いていた

会場内は星条旗をまとったアメリカファンで埋め尽くされた

(取材 三島直美 Photo by Sam Maruyama)

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