安部祐介さん

 

バンクーバーで単身赴任生活を送っている安部さんに現在の暮らしに至るまでの貴重な経験について話してもらった。

  

バンクーバーに来た経緯

 私は、もともと2000年の1月に会社の駐在員としてバンクーバーに来ました。それから5年ほど駐在員として仕事をしましたが、いろいろな人と仕事でかかわっていくうちに、世界で通用するビジネスマンになりたいと思いました。それから2005年に会社を辞めて改めて大学に行く準備と永住権を取得をし、その後ビクトリア大学にてMBAを取得しました。

 

日本とカナダの 働き方の違い

 まず大きな違いは、海外の学生は学生時代の勉強を将来の進路として据えて勉強している。なので、しっかりと自分の専門分野の知識があって、その周りにビジネス全体の知識なり技術がある。そんな基礎がしっかりした人たちに話をされると、日本の大学や日本の会社の中だけで教育を受けて来た人間にとっては話が通じない部分があって、そういう人たちとの交渉でも対等な立ち位置で話しをすることは大変難しいと強く感じました。

 

大学進学についての 家族の反応

 大学への進学の決断に対して家族の反応は未だに確実にはわからないですが、妻は「あなたがやりたいなら、やりなさい」と背中を押してくれたし、家族もカナダの生活を気に入っていたので反対はされませんでした。

 

大学の環境

 やっぱり日本の大学とは違って少しでも成績の悪い科目があれば、即退学。その中でもMBAのコースは特に厳しくて、ある程度の成績は必要なので息抜きはしたけれど、基本的に毎日学校から帰宅した後も勉強していて本当に勉強漬けの2年間でした。

 

卒業後の進路

 卒業後は、今の会社ではなくビクトリアにある金融系の会社に務めていました。そこでの経験は、とても成長できる良い機会になったと思います。学校で勉強したことを適用する良い機会にもなったし、それ以外にその会社で出会った人々と働くことでビジネスマンになるための知識を、経験から学べました。この会社で2年働いていた後に当時駐在員としてきていた時の会社の社長からポジションに空きがあるので帰ってこないかという打診があり、自分自身もそろそろ違うことをやりたいと考えていたので転職。同時に2009年から今の単身赴任の生活が始まりました。

 

大学に行った結果、 仕事で得られる充実感

 ありますね。やっぱりあの時に会社を辞め、大学で勉強した後、違う会社でいろいろなことを学べてすごく意味のあることだと思いました。当時と比べて部下に対する接し方も大きく変化。当時は、締め上げるような管理でしたが、今は仕事を任せて信頼する事を中心でそれが人を伸ばすと学びましたよ。ただ、自分が何か失敗をすればすぐにクビになりかねないのでそのプレッシャーとの戦いが激しいから前に比べればプレッシャーに対するストレスはすごい。こういうことは日本の同期とかにはなかなか理解できないところだと思います。

 

単身赴任のきっかけ

 転職した当時は、長男が13歳の時で、他の子どもと女房にも良い友達が沢山いました。ラングレーという新しい土地で生活を始めることは自分にとってはそれほど大変ではないが、彼らにとってはとても大変なことだと思ったので、自分が我慢して単身赴任すれば良いと思いました。始めた当初は、長期的ではなく何カ月後に家族で引っ越す予定だったのが、なかなかうまくいかず、家族は「ビクトリアにいたい」、自分も「家族にはビクトリアにいてほしい」と。気付いたら、毎週金曜夜に帰宅し月曜朝にはビクトリアを発つという生活が5年も続いていました。このような生活をしている人は他にもいるようで、毎週フェリーに乗ると10人くらい同じ人が。その内の一人、二人と話してみると、17年続けていると言われ、それに比べれば自分の5年なんてまだまだ、と感じました。

 

仕事と家事の両立を始めて

 両立は本当に大変でしたが、初めてお袋や女房に対する感謝の気持ちが湧いてきました。座ればご飯が出てきていたので、今まではありがたいことをしてもらっていたなと。この経験は、改めて普段気づかなかったことを認識させてくれる良い機会になったし、俺がいない分息子たちが、俺の代わりにいろいろとやってくれているので子育ての面でも良かったかなと思っています。

 

バンクーバーの生活の中で一番苦労したこと

 いろいろ大変なことがあり過ぎるくらいですが、おおまかには文化の違いが大きい、ということです。自分は、常に一歩引いてしまうところがあって、すぐに自分が悪いのかなと考えてしまい言い負かされることもある。また、主張しなければいけないときにも、なかなか言えずに下がってしまうところがある。これは日本的なところなのかなと思います。日本では人の言うことを聞きなさい、と言われて育ってきたので、聞いていると自分の意見を言う機会を失くします。だから結局自分の意見を言えないままに物事が進んでしまうことがあります。女房とも話しますが、3、40年そのように育ってきているので、これを変える必要はないとも思います。これをいかに北米の社会に合わせられるか、日本人としての意識を変えずに、どこまで北米の社会に適用させれるかを考えています。

 

バンクーバーに来て 良かったこと

 やっぱり自由時間が長いこと。日本だと通勤時間や会社にいる時間が長く、週末も疲れていて寝ていたし、どこも混んでいる。今はトライアスロンなど家族の時間など自分や家族のために時間を使うことができるのはとても嬉しいです。子どものスポーツの試合などもかかさず見に行けるし、自分の趣味などにも時間を持てることはすごく気に入っていて、バンクーバーに来て良かったと思っています。

   

(取材 仲野琢杜)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。